「あぁ、ダメだった‥‥‥」
 校舎の前に張り出された合格発表の掲示板。そこに僕の番号はなかった。
 あたりを見回すと、合格して喜んでいる人。番号がなく落ち込んでいる人などたくさんの人がいた。
 この学校は県内トップの進学校というわけでも、何か変わった特色があるわけでもない普通の学校だ。
「紫苑、残念だったな。」
 そう声をかけたのは同じ高校を受験した花見 蒼桜、僕の唯一の幼馴染だ。彼はクラスの隅で常に一人でいるような僕とは違い、
中学の時クラスの真ん中にいるような人間だった。
「そう言う蒼桜はどうだったんだよ」
僕がそう言うと彼は間髪入れずにこういった。
「俺も落ちちゃった」
 彼はあっけらかんとそう言った。

 あまりにも笑顔でそう言ったため僕は少し苛立ちを感じた。
「蒼桜は受験に落ちてショックじゃないの?」
「そりゃ落ちてショックだって気持ちはあるけど。でもこれも人生経験だしなにより
紫苑と同じ高校に通えるってだけで俺は嬉しいからさ。」
 彼の言葉に共感することができなかった。でもただ一つ、彼が僕と一緒の高校に通えて嬉しいと言ってくれたことは嬉しかった。




 合格発表から数日、僕と蒼桜はこれから通い始める高校の門の前に立っていた。僕たちは入学式が始まる前に、
決められた教室に向かい自分の席に着いた。
 席に着いてすぐ「はぁ」と小さくため息をついた。僕はまだ受験に落ちたことを受け入れたくなかった。
 今日の朝これから通う高校の制服に袖を通した時もため息をつき合格発表の時の悔しさが蘇った。
 入学式が始まり校長先生や来賓の人の長い話を右から左に聞き流し周りを軽く見渡すとほとんどの生徒が、高校生活を楽しみにしていそうな目をしていた。それに比べこの高校生活を楽しめる気がしない僕は少し劣等感を感じてしまった。
 式が終わりロングホームルームを行い学校から帰ろうとしたところで蒼桜を見かけた。「蒼桜!」と声をかけようとしたところで蒼桜の隣に蒼桜のクラスメイトらしい人が並んでいることに気がついた。蒼桜は入学式当日にして友達を作っていたのである。
 そんな彼を見て僕はふと
「死にたい」
そう呟いていた。


 入学式があった週末、僕は1週間の学校生活を1人で振り返っていた。
 月曜日、その日はホームルームで1日が終わった。僕は誰とも話さず、と言うよりも話せずに時間だけがただ過ぎていった。

 火曜日、朝、制服に袖を通すと月曜日に感じなかった劣等感を感じてしまった。

 水曜日、周りの人達は仲良くなり始めグループが形成されていた。

 木曜日、蒼桜が僕のクラスに来て僕に話しかけてくれた。
 
 金曜日、今日は蒼桜は僕のクラスに遊びに来てくれなかった。

 時々見る蒼桜は友達と話していてとても楽しそうだった。この1週間中学校の頃のようにたくさん友達を作った蒼桜とは対照的に僕はクラスメイトと仲良くなることができなかった。そしてこの1週間入学式に思った「死にたい」という思いは頭の中に残っていた。



 今日は日曜日、僕は蒼桜と二人で外に遊びに出掛けている。
 僕たちはまずゲームセンターに向かいゲームを楽しんだ。その後カラオケなど色々なところに遊びに行き楽しんだ。
 二人であそんだ帰りに蒼桜と二人で近所の公園で少し駄弁っていた。
「紫苑、俺実はもう学校に行ったりお前と遊んだりできなくなるんだ。」
 そう告げた蒼桜に僕は驚きのあまり声を発することができなくなってしまった。
詳しく話を聞くと蒼桜は昔から病気だったそうだ。
「なんでそんな大事なこと僕に言ってくれなかったんだよ。」
「俺のことで長い間悩んで欲しくなっかったんだよ。許してくれ。」
 僕は何も言い返せなくなったいた。その日は蒼桜と別れて家に帰った。

 それから1週間くらいたったある日蒼桜は突然病気で倒れ入院したそうだ。僕は急いで蒼桜が入院している病院へ走って向かった。
 蒼桜の病室に着くと蒼桜は静かに眠っていた。
「蒼桜、起きてくれ‥‥‥」
 僕は声にならない声を出して叫んだ。
「もしかして紫苑か。見舞いに来てくれてありがと。」
 蒼桜は小さくそう呟いた。
「紫苑、お前だけは俺のことを忘れないでくれ。」
 彼はそう小さくでも力強くそう言った。
「君を忘れない。」
 僕はそう彼に返事をした。
 それから蒼桜は4日後亡くなった。蒼桜のお通夜には蒼桜の家族、蒼桜のクラスメイト、そして僕が参列した。
 
 僕は絶対に蒼桜を忘れない。 彼のお墓には桜の花とシオンの花をお供えした。

 そして僕は死にたいと言う思い以上に蒼桜の分も生きたいと思うようになった。