「ぎゃあぁぁぁ! 腕、腕がぁぁぁぁぁぁっ!」

 アデルは体を覆い隠していた布を脱いで、そのままその賊の首を飛ばす。
 橋の上に鮮血が飛び散り、山賊の首がぼとりと地面に落ちる。

「な、何者だぁ!?」

 ギムはパニックに陥っているようだ。

「やれやれ、この剣を見ても俺がわからないか。さすがのヴェイユ島では俺も無名って事かな」

 アデルは漆黒の大剣を見せて、自嘲の笑みを浮かべる。
 大陸であれば、この漆黒の刀身の大剣を見せれば、ある程度の敵であれば逃げ去るのである。

「まあいいか……俺はアデル。ヴェイユ王宮兵団さ」
「同じくカロン」
「同じくルーカス」

 カロンとルーカスも布を脱いで、それぞれの武器を構えた。
 カロンは槍、ルーカスは弓で戦う様だ。

「お、王宮兵団だと!? あいつら、人手が足りないって言ってたんじゃ!?」
「らしいな。俺達は補充要員だ。ちなみに、大陸では銀等級の冒険者でもある。お前らが俺相手にどこまで戦えるのか、楽しみにしているよ」

 アデルは斬り落とした山賊の首を拾って、ギムの方へと投げた。

「ぐっ……」
「そうだ、ギムとやら。俺と取引をしないか? あんたらにとっても悪くない話だと思うんだが」

 唐突なアデルの言葉に、カロンとルーカスは首を傾げる。
 取引の話など、打ち合わせではなかったのだ。

「取引……だと?」

 ギムの瞳は恐怖に満ち溢れたモノだった。
 今の一振りと黒い大剣、そして銀等級の冒険者という情報を鑑みても、自らに勝ち目はないと悟ったのだろう。

「取引と言っても簡単なものさ。まず、こっち側の出す条件として、あんたらは武器を捨てて投降して欲しい。つまり、賊を辞めて、真っ当に剣闘士として死ぬまで闘技場で戦ってくれ。その代償として、といっては何だが――」

 アデルの続く言葉に、山賊達の固唾を飲む音が聞こえた気がした。
 カロンとルーカスはハラハラとした様子でそれを見守っている。

「あんたらのことは……殺さないでおいてやろう。俺もあんたらも、死んでるよりかは生きてる方が良いだろう?」

 アデルは山賊達を睨みつけた。
 その凍てつく様な冷たい瞳に、その場の誰もが凍り付いていた。そこには一切の情というものがなく、底冷えする様な殺意だけがあった。
 彼の殺気に、仲間であるはずのカロンとルーカスも覚えていた。

「どうする? 山賊さんよ。強盗を諦めて生き延びるか、それともこの場で野犬の餌になるか……自分で選んでくれよ」

 アデルは嘲笑を浮かべて、山賊達を眺めた。

「そ、その挑発には乗らねえぞ? お、俺たちゃまだ死にたくねぇからよ……」

 ギムが怯えた様に言った。しかし、そんな彼にアデルは絶望の言葉を与えた。

「ま、乗ろうが乗るまいが、結果は同じ事だけどな……?」
「へ? ちょ、ちょっとどういう──」

 山賊達に焦りの色が見えた。
 アデルは最初から取引などする気がなかったのだ。

「さてと、じゃあ五秒だけ待ってやる。せいぜい頑張って、生き延びるんだな」
「ちょっ、五秒で帰るなんて無理……っ!」
「五……四……三……二……」

 焦る山賊達に対して、アデルは無情にもカウントを進めた。
 山賊達は慌てて逃げる準備を始めたが、無情にもカウントは進んでいく。

「……ゼロ」

 最後の数字と共に──山賊達の惨劇が始まった。