「アデルさん……本当に僕達だけで大丈夫でしょうか?」
ルグミアンの大橋をゆっくりと渡っていると、気弱そうな茶髪の少年が小さな声でアデルに言った。
アデルと同じく王宮兵団に入団したカロンだ。アデルは考え事をしていたので、彼の声が耳に届いていなかった。
「アデルさん、聞こえてますか?」
カロンがとんとんとアデルの肩を叩いた。
「ん? ああ……悪い。少し考え事をしてたから」
アデル達は顔をフードで隠し、隊商を装ってルグミアンの大橋をゆっくりと渡っている最中だ。積み荷等は無論偽装だ。中身は空っぽの木箱のみである。
ルグミアンの大橋に出る山賊を討伐しろと言われても、いつでも彼らが橋で宴会をしているわけでもない。しかも、彼らの拠点などわかるはずもなかった。
ちなみに、どういった方法で山賊を討伐するか等の指示は一切出してもらっておらず、「自分で考えろ」がヴェイユ王国王宮兵団の訓示だそうだ。入団希望者が少ないの頷けた。
だが、これは元冒険者のアデルにとっては有り難い事だった。冒険者ギルドの依頼でも、ああだこうだと依頼者から細かく指示が出される事は少ない。自分で考えて依頼を遂行しさえすれば文句はなく、今回の山賊退治も同じ要領でできると考えたのである。
敵の居場所がわからないなら誘き出すしかない──アデルはそう提案して、隊商に扮する事となったのだ。
アデルの気のない返事に、横にいる緑髪の少年ルーカスが溜息を吐きながら言った。
「もうちょっと緊張感をもってくれ。もうこの辺りは危ない地帯なんだから……」
「ああ、分かっているさ」
アデルは大きな欠伸をしてそう答えた。
アデルは〝漆黒の魔剣士〟と呼ばれる程には戦闘に長けた冒険者だ。戦闘が豊富で、こういった賊の退治を行ったのも一度や二度ではない。時には小規模な紛争にも傭兵として駆り出された事もあるので、対人戦でもかなりの経験がある。
しかし、カロンとルーカスに至っては実戦そのものが初めてだ。彼らの緊張を考えれば、そわそわとしてしまう気持ちにも理解はできる。二人とも緊張で顔が青くなっていたのだった。
「き、来たぞ……!」
ルーカスが小声で慌てて言った。
アデル達の馬車が橋の真ん中まで辿り着いた時だった。両方の橋の入り口から、人影がぬっと現れる。
数は十程だ。
「カッカッカ、逃げ道はねぇぜ! ここがギム様の縄張りと知っての行為か?」
山賊の下っ端らしき男が嬉しそうに言った。
「どうせこの辺りの事に疎い田舎者の商人だろうよ。未知は災いの元っていうよな」
「さて、金目の物は置いてきな。まあどっちにしろ命はもらうがな。そうでしょ? お頭」
山賊達は口々に好き勝手言っていた。アデル達は黙って彼らの言葉に耳を傾けている。
「ギャハハハハ、ちげぇねえぜ!」
山賊の頭目──ギム──が嬉しそうに応える。
「……ふぅ」
アデルは小さく溜め息を吐いた。
これほど滑稽な山賊というのも滅多にいない。
「お? どうした? ビビッて声も出ねぇか?」
山賊のうちの一人が不用意にアデルに近づいてきた。
戦士としてどころか山賊としても三流だな、とアデルは呆れた。悪党がほとんどいない田舎者の島で悪事を働いているのだ。ろくに戦闘経験もないのだろう。
大陸の山賊であれば、素性がわからない相手に対してここまで不用意には近付いてこない。
「おいおい、そんな布を頭から被ってちゃ顔が見えな──」
山賊がアデルのフードに手を伸ばした時である。その言葉を言い終える前に、彼の腕は一本地面に転がっていた。
アデルが背の大剣を抜き、斬り落としたのだ。血が八方へ飛ぶ。
ルグミアンの大橋をゆっくりと渡っていると、気弱そうな茶髪の少年が小さな声でアデルに言った。
アデルと同じく王宮兵団に入団したカロンだ。アデルは考え事をしていたので、彼の声が耳に届いていなかった。
「アデルさん、聞こえてますか?」
カロンがとんとんとアデルの肩を叩いた。
「ん? ああ……悪い。少し考え事をしてたから」
アデル達は顔をフードで隠し、隊商を装ってルグミアンの大橋をゆっくりと渡っている最中だ。積み荷等は無論偽装だ。中身は空っぽの木箱のみである。
ルグミアンの大橋に出る山賊を討伐しろと言われても、いつでも彼らが橋で宴会をしているわけでもない。しかも、彼らの拠点などわかるはずもなかった。
ちなみに、どういった方法で山賊を討伐するか等の指示は一切出してもらっておらず、「自分で考えろ」がヴェイユ王国王宮兵団の訓示だそうだ。入団希望者が少ないの頷けた。
だが、これは元冒険者のアデルにとっては有り難い事だった。冒険者ギルドの依頼でも、ああだこうだと依頼者から細かく指示が出される事は少ない。自分で考えて依頼を遂行しさえすれば文句はなく、今回の山賊退治も同じ要領でできると考えたのである。
敵の居場所がわからないなら誘き出すしかない──アデルはそう提案して、隊商に扮する事となったのだ。
アデルの気のない返事に、横にいる緑髪の少年ルーカスが溜息を吐きながら言った。
「もうちょっと緊張感をもってくれ。もうこの辺りは危ない地帯なんだから……」
「ああ、分かっているさ」
アデルは大きな欠伸をしてそう答えた。
アデルは〝漆黒の魔剣士〟と呼ばれる程には戦闘に長けた冒険者だ。戦闘が豊富で、こういった賊の退治を行ったのも一度や二度ではない。時には小規模な紛争にも傭兵として駆り出された事もあるので、対人戦でもかなりの経験がある。
しかし、カロンとルーカスに至っては実戦そのものが初めてだ。彼らの緊張を考えれば、そわそわとしてしまう気持ちにも理解はできる。二人とも緊張で顔が青くなっていたのだった。
「き、来たぞ……!」
ルーカスが小声で慌てて言った。
アデル達の馬車が橋の真ん中まで辿り着いた時だった。両方の橋の入り口から、人影がぬっと現れる。
数は十程だ。
「カッカッカ、逃げ道はねぇぜ! ここがギム様の縄張りと知っての行為か?」
山賊の下っ端らしき男が嬉しそうに言った。
「どうせこの辺りの事に疎い田舎者の商人だろうよ。未知は災いの元っていうよな」
「さて、金目の物は置いてきな。まあどっちにしろ命はもらうがな。そうでしょ? お頭」
山賊達は口々に好き勝手言っていた。アデル達は黙って彼らの言葉に耳を傾けている。
「ギャハハハハ、ちげぇねえぜ!」
山賊の頭目──ギム──が嬉しそうに応える。
「……ふぅ」
アデルは小さく溜め息を吐いた。
これほど滑稽な山賊というのも滅多にいない。
「お? どうした? ビビッて声も出ねぇか?」
山賊のうちの一人が不用意にアデルに近づいてきた。
戦士としてどころか山賊としても三流だな、とアデルは呆れた。悪党がほとんどいない田舎者の島で悪事を働いているのだ。ろくに戦闘経験もないのだろう。
大陸の山賊であれば、素性がわからない相手に対してここまで不用意には近付いてこない。
「おいおい、そんな布を頭から被ってちゃ顔が見えな──」
山賊がアデルのフードに手を伸ばした時である。その言葉を言い終える前に、彼の腕は一本地面に転がっていた。
アデルが背の大剣を抜き、斬り落としたのだ。血が八方へ飛ぶ。