ここまでが当時、私だけが観た事柄の全てだ。そしてこれから記すのは世間的に知られる彼らのその後だ。まずは結果だけを見てもらおう。

 伊吹童子の死後間もなく若い貴族らの姫君が何人も行方不明になる異変が起こった。陰陽師の術を使って全てを知った私は、鬼たちの『お頭』が原因であるとだけ伝えた。私の仕事は『異変の犯人を特定する』ことだけだったからだ。

 それから直ぐに討伐隊が編成され、人間の快勝と共に鬼たちは全滅したと聞いている。

 さらに聞いた話だと、彼らの『お頭』は「伊吹童子」がどうだとか言っていたと言う。だからそのお頭の名を伊吹童子として、後世に人間たちの英伝として語り継ごうとしているらしい。

 私はこれを聞いて全て察してしまった。本物の『伊吹童子』を殺したのは我々人間に他ならないこと。その事を『お頭』と呼ばれていた鬼は知っていたから復讐をしに大江山を降りて来ていたということ。

 私はどちらを庇うべきだったのか。我が子同然であった者を殺されたことへの復讐に来た鬼なのか。それとも、自分らの愛娘を奪われた憎しみに駆られた人間か。

 彼らの悲劇の真相を知った人間は私だけであった。私ならば、彼らの悲劇が惨劇になることを食い止めることも出来たはずなのである。結局私は超人の陰陽師であっても、"人間"としての思考が限界であった。

 私は陰陽師である"私"を信用した。その結果、『お頭』の本来の名前すら残らず、挙句の果てには彼女が『伊吹童子』として世に知られることとなってしまった。

 私にはどうすることも出来なかった。何も出来ずに数十年が過ぎ、私にも終わりが近づいている。この後悔を抱いて一生に幕を下ろす。