こうして私たち妖怪と一人の生活が始まった。

 初めにどこから来たのかと聞いてみた。するとボソリと「伊吹山…」と呟いた。多分あそこの山の麓にある村から来たのだろう。随分遠い場所から来たものだ。親はそんなにこの子供を殺したかったのか。

 次は名前だ。本当は自分で考えてもらうつもりだったが、どうやらこの子供は言葉をあまり知らないらしい。知ってる言葉はないのかと聞いても、「母」とか「金」とかしか覚えていなかった。

 私が説教食らってる間も黙って聞いていたのはそのせいか。というか数少ない知ってる単語に「金」が入ってるの生々しいな。せめて「父」くらい覚えさせてやれよ。家庭環境浮き彫りになってるぞ。

 仕方なく私たちで名前を考えた結果、伊吹山の麓から来た子供ということで『伊吹童子』になった。早速伊吹にそのことを伝えると、今までで一番目を輝かせてコッチを見つめてきた。

 まさに純粋無垢って感じだ。案外かわいいところもあるんだな。

 ほら、今コイツに情が移ってただろ?やっぱり私が『血も涙もない』だなんて言い過ぎなんだよ。