平安時代、理屈では説明し得ない技術を持つ人間たちを世間は『陰陽師』と呼んだ。人々は奇怪な事柄が起これば直ぐに彼らを頼った。

 一条天皇が国を治める頃、姫が次々と拐われる異変が起きた時もそうであった。何としてでも犯人を見つけてほしいと"私"の元へ訪ねてきた。

 私には自信があった。この異変の主犯は鬼であるという確信もあったから、鬼のことを徹底的に調べあげて確実に仕留めてやろうと考えていた。

 今思えばこれが大きな間違いだったのかもしれない。私が陰陽師としてどうするべきであったのか。"あれ"知ったうえであの鬼退治に協力したことは正しかったのだろうか。死期が近づき床に着いている現在も、私のもて悩み種としてつきまとっている。

 だから私はこの術を使うことを決意した。生きてる間に出来ることの大半は既に終わっている。他に私に出来ることは"あれ"について後世に知ってもらうことだ。

 今から行うのは最後の術。泰山府君祭(魂を呼び戻す術)を応用した、私にしか出来ない術。私の魂が持つ"あれ"について、あの鬼のやったことを主観的に第三者へ伝える術だ。私の選択の是非は、この記述を見た誰かに判断してもらうとしよう。