兄アレックが存命中からフリッツは、その美しい義姉のラフレシアを、実の姉弟のように慕っていた。
 夫を亡くしてから、人と関わることが殆んど無くなった義姉の元を、フリッツは足繁く訪れては、なにくれとなく彼女の寂しい日々を慰めていた。

 そうしてフリッツはいつの間にかこの美しい義姉に、恋心を抱くようになっていったのである。

 十八歳の若き領主と、義姉である二十六歳の美しい公太后の恋の噂は、瞬く間に公宮中に広まった。
 そこで困ったのは、若き領主に代わって宮廷を預かる立場の重臣達であった。

 当初は若さゆえの気紛れであろうと、さほど気にも掛けていなかったのだが、毎日のように太后宮に入り浸る主君の有り様に、これはどうも本気らしいと気付いたときにはすでに遅かった。
 二人は義理の姉弟の一線を越え、男女の仲となってしまっていた。

 初めの内はラフレシアも、義弟の言葉に取り合いもせず、適当にあしらっていたのだが、度重なる求愛にとうとう押し切られるような形で、フリッツの想いを受け入れてしまったのである。

 純粋に熱い恋心を訴えて来る若き義弟に、在りし日の亡き夫の面影をだぶらせたのかもしれなかった。
 それにラフレシアもまだ二十六歳、一人で余生を過ごすには若過ぎる歳であった。

 互いに伴侶のいる立場ではなかったが、これが一国の君主とその亡き兄の未亡人となると、世間がこの恋の成就を許しはしなかった。

 とうとう一昨日の宮廷会議に於いて、フリッツは重臣達一同からラフレシアとの関係を諦めるように諫言されたのであった。