しかしなにも他の国の王族達ばかりが、彼女に恋い焦がれた訳ではない。
 自国サイレンにも、彼女に心を奪われた公子が現れた。

 その美貌に惚れ込んだ公太子当時のアレックが、これも又散々と騒動を起こした末に我を貫き通し、とうとう彼女を妃としたのであった。

 彼には親同士が取り交わした、某国の姫という許嫁の存在があった。
 だがアレックはその関係を一方的に破棄し、自分の意が通らなければ大公位の継承権を捨て、国を出るとまでいい出す始末であった。
 どうにも手を焼いた両親と重臣一同は根負けして、アレックとラフレシアの結婚を許してしまう。

 そこで婚約を破棄され面子を潰された格好となった某国は烈火のごとく怒り狂い、両国は六年もの間国交を断絶するという事態にまで発展してしまった。


 諸国の王侯たちからその美を賞賛されたラフレシアを妃に迎えたアレックは、それこそ倖せの絶頂の中で日々を過ごしたのは想像に難くない。

 大公位に就いても、政よりもラフレシアに夢中で公務は自然と疎かになってゆく。
 アレックは家臣たちからの諫言を快く思わず、政務を放り出し遊興に耽るようになった。

 結果として酒量が増加し、それを継続した事による酒毒で病の床に就き早世してしまうこととなった。