そこは宮廷の下働きをする下女たちの休憩所の、さらに奥にある物置部屋であった。

 ここまで来ると剣や槍を手にした兵どころか、阿鼻叫喚状態の女官や右往左往し逃げまどう小間使いたちの姿もない。
 その物置部屋の隅には、下女のお仕着せが吊るされた造りつけの衣装棚が三つ並んでいた。

 老人は迷わず真ん中の棚に掛かっている衣類をかき分け、折り目正しく畳んで積まれているシーツやタオルを取りのぞくと小柄(こづか)を使い器用に側面の羽目板をはずす。

 そこには隠れるように、ひっそりと木の取っ手があった。
 普段この棚を使っている下女たちでさえ、気付かぬような絡繰り(しかけ)である。

 ダリウスが懐から木製の鍵を取り出し、取っ手の下に穿たれた穴に差し込み右に三度回転させる。
 そうして取っ手を手前に引くと、衣装棚が重々しく回転し、人ひとりがやっと入れる隙間が空いた。

 はずした板を慎重に元に戻し、かき分けたシーツ類をかぶせる。
 隙間の先には、真っ暗な闇の中へと続く通路が口を開けていた。
 一定期間外界から隔てられていたのだろう、その通路からはカビとも埃ともつかないよどんだ臭いが漂ってくる。

 少年は城内にそんな扉や通路があったことさえ、今のいままで知らなかった。