当の本人はそんなことには全くの無頓着で、自分の美しさにさえ気付いていないようである。

 全体としては男っぽい凛とした印象であるのだが、個々を取れば、エメラルドのように深い碧色の大きな瞳。すっきりと通った細い鼻筋。薄い桜色をした唇。そしてなによりも〝黄金の雌龍(しりゅう)〟の渾名の元となった、金色の長く豊かな髪の毛。

 子どもの頃には意識することさえなかった甘い香りが、その豊かな髪から発散されるのを彼は眩しい思いで胸いっぱいに感じていた。

 恋愛に疎いブルースは、その感情が恋だとはまだ気付いてなかった。

 更にエメラルダに至っては、まだブルースを男としてさえ認識してはいないようすである。

「おいブルース。顔が赤いぞ、熱でもあるのか。ぼーっとしておらず早く続きを話せ。誰が来ておるのだ」
 どうやら、先に恋をしたのはブルースの方であったらしい。

「ゴホッ! お、おおそうだった――」
 われに返ったブルースは、わざと視線を逸らしながら一つ咳をする。

「その使者とはな、楼桑国一のうるさ方で、国王ロルカⅡ世陛下の側近中の側近、アルバート=ガンツ老伯だ」
「国王の側近が、一体なんの用件でわが国へ来たのであろう。しかも先触れもなく」
 思案顔のエメラルダに、ブルースがさも得意気に言葉を続ける。

「ガンツ老の楼桑国でのもう一つの、重要な役割を思い出してみろ」
 暫くなにかを思い出すかのように考え込んでいたエメラルダの顔が、大きな瞳を更に大きく見開き一瞬輝いた。

「おおそうか、王が最も気に入っているという姫の守役・・・」
「その通り。ロルカ王が目の中に入れても痛くないほどに可愛がっている、美人と評判の高いロザリー姫の守り役だ」
「と言うことは、殿との縁談話・・・」
「俺はそう睨んでいる。殿は十八歳、ロザリー姫は十五歳。ちょうど似合いの歳だ」
 ブルースは腕を組み、ひとり大きく頷いた。

「しかし先触れも出さぬ急の使者、ただの縁談話だけとは思われぬが」
 エメラルダが呟く。
「それよ、しかも正式な国使と言う訳でもないようすなのだ。だからこうして殿を探しておるのだ。宰相のガリフォンさまと外務卿のユーディ伯、それにお前の親父殿もすでに集まっておられる。さっさと殿の居所を教えてくれぬか」
 これで分かっただろうと言わんばかりに、ブルースが顎をしゃくり上げる。