「誰が来たのだ。まさか王族の誰かという訳でもあるまい」
 エメラルダは興味深々に、ブルースの顔を見詰める。

 彼女は頬に息が掛かるほどに、顔を近付けて来た。

 その名の通り、深い湖の底のような碧色の瞳で間近に見詰められたブルースは、思わず胸が詰まるような心地になり、返事をするのを忘れてしまった。

 生まれた時から、双子同然に接してきたエメラルダに、この頃はっとするほど女の表情を感じるときがある。

 確かにエメラルダの容姿は、並の女以上に美しいものであった。
 年頃の貴族の子弟や、若い軍人の間で彼女は羨望の的となっていた。

〝湖のように美しいエメラルドの瞳を、自分のモノにする果報者は一体誰だ〟
〝しかしあの気性に加え、父親がダリウス将軍と来た日にゃ一筋縄じゃいかないぞ〟
〝それにいつもあの厳ついブルースが一緒じゃ、声を掛けた瞬間にぶん殴られそうだしな〟

 誰もが躊躇して言い寄る男が現れないまま、彼女は当時の貴族の息女としての結婚適齢期を過ぎようとしていた。