ダリウスは懐から三本の鍵を取り出すと、三つの金属に穿たれている鍵穴にそれぞれを差し込んだ。
鍵穴の下には、各々大きな丸い絡繰りが取り付けられている。
その丸い金属は三重構造になっており、ダイヤル式に回転するようだ。
ダイヤルには文字なのか、記号なのか判然としない細かい刻印がなされている。
彼は躊躇うことなく真ん中のダイヤルをクルクルと回し、三つの目盛りらしきものを合わせると、差し込んだ鍵を左に一回転させた。
〝ガチャッ〟
重々しい音が響いた。
どうやら一つ目の鍵が開いたようだ。
同じ要領で、他の二つの鍵を左、右の順で解錠してゆく。
「よし、閂を引き抜き扉を押し開けよ」
そう指示を出す。
(ダリウスの説明によるとこの解錠の順番も決められており、間違えれば解錠機能はそこで失われ、二度と元に戻すことはできないらしい)
兵がふたり掛かりで扉を押すと、少しずつ外に向かって開かれてゆく。
押し開かれた扉の先も、同じような暗い地下道であった。
扉を開ければ外に出られると期待していた兵士達に、微かな落胆の気配が漂った。
しかも扉の先の地下道はより狭く、自然に近い洞窟そのものといった形状をしている。
ダリウスは三つの鍵を全て抜き取り、ダイヤルを無造作に回すと、より狭い洞窟状の通路へ出て兵に扉を元通りに閉めるように命じた。
扉がぴったりと閉め切られると同時に、ガチャガチャと金属が触れあう音がした。
どういう仕組みか分からぬが、機械式の絡繰りが再び錠を掛けた音なのだろう。
扉の外側には鍵穴や取っ手どころか、ほんの些細な突起すらない。
開くのは内側からのみで、こちら側からはなんの操作もできないようである。
完璧な脱出専用の地下道だ。
万が一なに者かが隠し通路を終点まで辿り着いたとしても、扉を開けるのは不可能である。
どうしても開けたいのであれば、この分厚い木製の扉を壊すしかない。
破城槌でも使用すれば突破できるだろうが、狭い地下通路を延々と運ぶことなどできるはずがない。
事実上この扉を一気に破壊するのは、非現実的な行為だった。
こつこつと時間を掛け、少しずつ破壊作業をする以外に方法はない。