城が燃えている。
紅蓮の焔を噴き上げながら、城が燃えている。
整然とした佇まいを誇った、公都トールンの街の大半が炎の海に沈んでいる。
眼下に見下ろすサイレン公国を象徴する星光宮が、まるで玩具の積み木のように小さく見える。
赫々とした炎の照り返しと黒煙に捲き上げられたその美しい建物は、火炎に包まれているというのにどこかしら幽玄的な美を放っているように見えた。
或る歴史家はかつてこう言った。
〝完全なるものが滅び去る瞬間が、この世で一番美しい〟
見下ろすトールンの町並みは、まさにその言葉を具現化しているようなあり様だ。
夢の中の情景のようであった。
美しいとさえ思える光景であった。
俯瞰して見ている故に、なおさら際立ってよくわかる。
少年にはそれが現実のこととは思えなかった。
先程まで自分が眠っていた、この世で一番安心できると思っていた城が、真っ赫に染まりいまにも崩れ落ちる寸前となっている。