「えーっと……キリエさんはこの屋敷にいるんだよな?」

 魔王城の広々とした正門を出ると、隣接したすぐ近くの土地には三階建てくらいの屋敷があった。

 多分、キリエさんが普段過ごしている場所というのはここで間違いないだろう。

「それにしても、魔王城の外観怖すぎるだろ」

 俺は下から魔王城の全貌をじっくりと眺めた。
 中はワンフロアごとに天井が高くてだだっ広いこともあり、とても地上十五階建ての城とは思えないほどの迫力だった。

 てっぺんはもう先が遠くて何も見えない始末だ。
 おまけに魔界の空は分厚い雲に覆われて薄暗く、太陽の光は差し込んでこない。
 ただ、昼夜の概念はあるのか、時間の経過ごとに空の明るさは変化している。

「……本当に魔界にいるんだな。しかも、人間たちが恐れていた魔王は良い意味で印象が違ったし、なんかもう訳わからないな」

 魔界の出来事を誰かに話したら、間違いなく嘘つき呼ばわりされる。

 というわけで、俺は屋敷の入り口である大扉に近寄っていき、恐る恐るノックした。

「今行きます」

 すぐに屋敷の中からキリエさんの声が聞こえてきた。

 数秒後、ゆっくりと扉が開かれ、扉の隙間からキリエさんが顔を出す。

「おや? ソロモンさん、いかがなさいましたか?」

 キリエさんは首を傾げて長い黒髪を靡かせた。

「これを返そうと思って来ました」

 俺は魔王城の構造が記された地図、もとい紙の束をキリエさんに差し出した。

「地図……ああ、こちらはソロモンさんに差しあげますよ。まだ魔王城に慣れていないでしょうしね」

「本当ですか? それは助かります」

「用件はそれだけですか?」

「はい」

 何か言いたげな様子のキリエさんの目を見据えた。
 俺に用事でもあるのか、半身になって少しばかり扉をオープンな状態にしている。

「……ソロモンさんは魔道具にお詳しいんですよね?」

「まあ、そうですね」

 何でそれを知っているんだと言いたくなったが、そういえば俺の記憶はあらかた把握されているって言ってたな。

「一つ折り入ってご相談があるのですが……見ていただいた方が早いかと思います。どうぞ」

「失礼します」

 俺は何をするのかされるのかもよくわからなかったが、とにかくキリエさんについて行ってみることにした。

 キリエさんが俺に相談することなんてあるのだろうか。魔法に長けたエルフで回復魔法についても言及していた気がするので、俺の出る幕は全くないような気がする。