碧は一人、二人で夢を語り合った川辺にやってきた。

 夏のあの日は心地よかった日陰は、まるで碧の心情を表しているかのように、(かげ)が差し、陰鬱な場所に変わっていた。

 碧は腰を下ろし、足元に会った小石を指で転がした。

「神様のバカ」

 誰に聞かせるわけでもない言葉は、虚しく消える。インターネットで調べると、いい情報と悪い情報が同じくらい入ってくる。

 便利な世の中は、不便な時代とも言えるだろう。

 現に、碧は情報に振り回されているのだから。

 碧はスマートフォンを手に取り、メッセージアプリを開いた。

 一番上にある向日葵のアイコンをタップする。

 このアイコンは千乃の描いたイラストだ。

 季節が夏で止まっている。

 それは、千乃の時がそこで止まっているからか、夢を語った思い出の中にいたいからなのかは、わからない。

 少なくとも、碧は夏に戻りたいと思っている。「生存率……骨髄移植……余命……」

 碧の人生で縁のなかった言葉ばかりを呟き、両手で顔を覆った。

 怖い。

 今、この瞬間、千乃はどうしているのか、想像すると不安に襲われる。

 苦しんでいるかもしれない。

 痛みに耐えているかもしれない。

 治療の副作用と必死に戦っているかもしれない。

 どんな想像をしても、千乃の笑顔は思い浮かべることはできない。

「星宮さん、会いたいよ。本の話しようよ。将来を思い描いて、一緒に笑おうよ。ねえ、どうして、病気は君を選んだんだろう。どうして、君の笑顔が奪われなくちゃいけないんだ」 病は理不尽だ。

 何も悪いことをしていなくても、無差別にやってくる。

 無差別だと言うなら……。

「俺が病気になればよかったのに……」

 その時、手の中でスマートフォンが震えた。

 見ると、千乃からの着信だ。

 入院してから、短い文章だけが送られてきていたが、電話は初めてだった。

 碧は深呼吸し、その着信を取った。

「……もしもし」

 スマートフォンを持つ手が震えている。

 声も少し震えていたが、千乃に気付かれてしまっただろうか。

 不安になりながら、碧は返事を待った。