雨粒が水たまりに波紋をつくり、そこに映る世界が揺れて、違う顔を見せる。

 世界は一つで、現実世界しか存在しないはずなのに、歪んで見える水たまりの中の世界は、創りもののように見えた。

 佐倉(さくら)(あおい)は視線を上げると、傘を持ち直し、雨の中を歩く学生たちの背中を一つ一つ確認した。

 もうすぐ夏休みだというのに、最近の長雨のせいか、どの背中も憂鬱そうだ。

 傘のせいで友達との距離ができてしまい、一緒に登校しているはずの学生ですら、会話は少ない。

 碧は再び視線を落とし、白いスニーカーが雨を弾く様子を見ながら、沈んだ気持ちを誤魔化した。

 別に探してないし、と心の中で呟く。 偶然がいくつも重なると、それが必然であるように感じるが、結局は偶然が積み重なっただけだ。

 期待していたわけでもない。

 それなのに、どうして、いつも見つける背中を見つけられなかっただけで、こんなにも落ち込んでいるのだろう。

 碧は小さく溜息を吐き、機械的に足を動かし続けた。



「うわ、ベタベタで気持ち悪い」
「梅雨明けしたんじゃないのかよ」

 タオルで鞄を拭きながら、愚痴を零しているクラスメイトの後ろを通り、碧は窓際の一番後ろの席に向かった。

 湿ったリュックサックを机に置き、ズボンについた水滴を手で払う。

 隣の席は空席だ。

 碧は時計を見て、始業時間まであと五分だと確認した。