目を付けたのはバイオファーマだった。バイオテクノロジーによって医薬品を開発するベンチャー企業だ。その会社はインフルエンザ用のワクチンを開発していた。それは今までにない作用メカニズムを有する新型のワクチンで、その高い有用性に注目した大手製薬企業とライセンス契約を結んでいた。今は臨床試験の最終段階が終わり、当局への申請中となっている。次のステップは承認だ。承認されて発売されればかなりの売上が見込めるようだ。そうなればこのバイオファーマに多額のロイヤルティが入ってくる。その情報がリリースされれば株価は跳ね上がる。何十パーセントというレベルではない値上がりが期待できるかもしれない。世の中には、テンバガーと呼ばれる株価が10倍にまで跳ね上がった銘柄が少なからず存在するのだ。このバイオファーマもそうなるかも知れない。そう考えると、いやがうえにも期待が膨らんだ。すると居ても立ってもいられなくなった。すぐに保有しているすべての株を売って、それを元手に600万円の保証金を証券会社に入金した。そして、保証金の2倍の金額、1,200万円をつぎ込み、このバイオファーマの株を買った。
 勝負だ!
 わたしは気合を入れた。
 
 最初は順調だった。株式関係のネットニュースなどでこの会社の情報が取り上げられると、承認への期待から株価が上昇していった。節目節目で利食い売りは出るが、それをこなして順調に値を上げていった。わたしはその度にほくそ笑んだ。
 この会社の株を買った時、承認されれば株価が3倍になると読んでいた。つまり、1,200万円の投資が3,600万円になるのだ。信用で借りた分を返済して税金や手数料を払っても大きな儲けが手に入る。株価上昇のチャートを見ながらニヤニヤ笑いが止まらなかった。