5

 初出社の朝を迎えた。カーテンを開けると、空はどんよりと曇っていた。今にも雨が降りそうな気配だった。
 門出の日くらい晴れてくれてもいいのに……、
 空に向かって恨み言を投げたが、空は黙ったままわたしを見つめていた。
 ま、雨さえ降らなければいいか、
 気持ちを切り替えて、寝袋を折り畳んだ。それから流しで顔を洗い、歯磨き粉を付けずに歯を磨いてから、ちゃぶ台の前に座った。朝食は昨夜スーパーの総菜コーナーで買った〈豚のロースかつ重+讃岐うどんセット〉だった。電子レンジがないので冷たいまま食べたが、贅沢過ぎる朝食に心が躍った。
 食べたあとのごみを片付けてから歯磨き粉をつけて念入りに歯を磨いていると、腸が動き出した。慌ててトイレに入ると、するりと気持ちの良いお通じがあった。爽快感に包まれてしばらく動くことができなかった。
 晴れやかな気分になったわたしはおニューのジャケットとパンツに着替え、手鏡を動かして全身をチェックした。悪くなかった。なかなか(さま)になっていると思った。その後、手鏡に顔を映して笑顔の練習を二度行った。そして、右手にビニール傘を持って、左手でアパートのドアを開けた。
          
 出社すると、総務部長が名刺を渡してくれた。〈株式会社 会社案内企画〉。そして、〈ライター 才高叶夢〉と印刷されていた。
 その後、若い女性を紹介された。面接の時に同席していたカメラマンだった。
結城(ゆうき)(めぐみ)です」
 彼女とチームを組んで取材するとのことだった。
「ど素人なのでご迷惑をおかけすると思いますが、よろしくお願いします」
 わたしができるだけ丁寧に頭を下げると、「私も経験は浅いんです、昨年の入社ですから。こちらこそよろしくお願いします」と彼女は両手を膝に置いて、わたしより丁寧に頭を下げた。
 2日間の研修を終えると、早速、ある会社の取材を命じられた。株式会社『美顔(びがん)』。芦屋市に本社のあるスキンケアの会社だった。
 その会社の資料を読み込んだ。
 ・社長が一代で築き上げた会社
 ・今年で創業30周年
 ・スキンケア製品だけでなく、お客様の〈健やか〉のための様々な事業を展開
 ・年商200億円
 ・社員数200名
 翌日、具体的な取材のスケジュールを広報室と調整した。電話とメールでのやり取りに少し時間がかかったが、経営トップや各部門へのインタビューの日程が固まり、取材に行くことになった。