中には泣き出す妃もいた。

「妃達には、これまでよく私に仕えてくれた。一人一人お礼を言いたい。」


皇帝がそう言うと、妃達は一人一人皇帝の元へ歩み寄った。

「今までありがとう。」

その一言だけで、最後のお別れなのだ。


「あなたはどのくらい、宮殿にいたの?」

隣の妃が私に話しかけてきた。

「……結構長く。」

「私は5年よ。お渡りは一度だけ。無駄な5年を過ごしたわ。」


無駄な時間。

そうだったのかもしれない。

結局、皇帝に愛される事も、子供を成す事もなかった。


そしてとうとう、私の番が回って来て、皇帝の前に膝を着いた。

「名前は?」

「……桃花です。」

「そうか。桃花か。今までありがとう、桃花。」

「……はい。」

名前すら覚えていなかった。