「うわっ!びっくりした。」
そう言って、驚いた顔を見せる彼。私は笑顔でその隣に肩を並べた。
「えぇ、そんなびっくりする?」
「心臓、止まったかと思った。」
その言葉で一瞬、昔好きだった人を思い出した。彼もよく、驚かせたときにそう言っていたから。
でも今はもう、好きだなんて思っていない。
好きになってよかった。とは思っているけれど、いい思い出にできている。
だって私は既に、他の人に本気で恋をしているから。あの時よりずっと落ち着いていて、楽しい恋愛をいているから。
「美優もアイス買いに来たの?」
彼の声でふと我に返る。そして問いかけに答えた。
「そうだよ、蒼汰も?」
「うん、暑くて。」
「ほんと、気温バグだよね。」
そう二人して苦笑いし、ショーケースを覗き込む。
先程まで考えていた昔のことは、もうすっかり頭から抜けていた。
軽快なBGMにピンポンという入店を知らせる合図が音を奏で、同時に「いらっしゃいませー」と誰かの声が響く。それでも私の耳に届くのは、自分自身の鼓動音と彼の声だけ。
冷たいボックスの中に手を突っ込み多種多様なアイスを手に取ってみる。そうやって迷っているように見せるが、実は違うのだ。
少しでも彼との時間を先延ばしにしたくて、「せめて彼が選び終わるまでは。」とそういう魂胆だった。
だけどいくらここでアイスを選別していても、彼が早々にいなくなってしまうんじゃ意味がない。
「俺、これにしよ」
すると蒼汰は片手で食べられるソーダ味の氷菓アイスを手に取ってそう言った。。
行ってしまう。せっかく会えたのに。この機会を逃せば夏休みが終わるまで、またしばらく会えなくなってしまう。
まだ、もう少しだけ一緒にいたい。そんな気持ちが、そんな気持ちだけで頭がいっぱいになっていく。
「美優はどうするの?」
だから私は勇気を出して声を発した。
「あ、のさ。」
私の言葉に彼がこちらを見つめ、その優しい瞳で続きを待っている。
震える手を両手で握りしめ、いつもより一歩大きく前に踏み出す。
「よかったら、近くの河川敷で一緒に食べない?」
彼の問いかけとは少しズレた回答だったと思う。
それでも蒼汰は嫌な顔一つしない。
ドクン、ドクン、とさらに鼓動が高まっていく。
彼が口を開くまでの時間が私には長く、長く感じられた。
「うんいいよ、一緒に食べよー。ていうか最初からそのつもりだったよ」
しかし彼はさも当たり前かのように笑い、そう返答した。
私の不安は簡単に打ち砕かれ、思わず拍子抜けしてしまう。
でも、うん。なんだか今日は行ける気がする。私の脳内信号も青色に光っている。
「じゃあ私、これにする!」
そして、ようやくまともに見れるようになったアイスたちを一瞥し、その中で一番高いカップアイスへと手を伸ばした。
自分に、気合を入れる。
それからついでに飲み物も手にとって、商品を購入した。否、買おうとした。
「俺が払うからアイスと飲み物、かして。」
「え、いやいいよ!大丈夫!」
「いいから」
「あ、えっと。じゃあ、お言葉に甘えて。」
断る私に無言で手を差し出す彼。その手に渋々商品を渡し、会計を済ませてもらった。
「ありがとうございましたー」
そんな声と共に涼しい店内から地獄のような暑さへと逆戻りし、私は彼にお礼を言う。
「奢ってくれてありがとう。」
申し訳無さはありつつも、好きな人にされたことだもん。嬉しいに決まってる。
「このくらい全然、気にしないで」
すると彼はいつもの、にこやかな笑顔でそう返した。
「美優は歩き?」
「うん」
「ん、じゃあ歩くわ」
ミーンミーンとセミが鳴いている。
すぐ隣では彼の押す自転車がカラカラと音を立てていた。
「コンビニ涼しかったから、外余計暑いねー」
そんな中会話が振られる。
「ほんとね、早くアイス食べたいなー」
君の側で過ごすコンビニはちっとも涼しくなんてなかったけど。なんてそんなセリフ、言えるはずもなく私はそれに肯定を示した。まあ外が暑いというのも、アイスが食べたいというのも、全部本当のことではある。から嘘はついていない。
そうやって自分を納得させた後も会話は弾み、体感的には早い段階で河川敷へ到着した。私は上から三段目、アスファルトの階段に座り、一息つく。
川から吹いてくる爽やかな風が、心地いい。
「よいしょ」
そして彼は自転車を端に止め、私の一段上に腰かけた。
二人口を開かずボーっとする。自然体で気持ちの良い時間が空間を支配していた。
しかし私達は忘れてはいけない。熱に弱い冷たい食べ物を所持しているということ事実を。
彼も気がついたのだろう。慌ててそれを取り出した。
「ごめん。なんか心地よくて、忘れてた。」
「溶けちゃったかも。」と申し訳無さそうにする彼からアイスを受け取り、蓋を開ける。カップの中のアイスは溶けかけてはいるものの、なんとか形を保っていた。
「やっぱり溶けてきてるね。」
そう言いながら蒼汰は自分のアイスも開け、何も言わずにがっくりと肩を下げた。
「仕方ないよ、夏だもん。早く食べよう」
なんとかフォローを入れ溶けかけのアイスを食べ始める。
少しして。彼もそれを食べ始め、再び言葉の無い時間が訪れた。
冷たさが口いっぱいに広がり美味しさを噛みしめる。
彼も同じ気持ちだろうかと思い、ちらりと隣を見てみる。
蒼汰は、木の棒すら刺さらない状態のアイスを悪戦苦闘しながらなんとか食べ進めていた。
その様子がなんだかおかしくて私は、思わず笑みがこぼす。
「笑わないでよー」
なんて言いながらも、結局は二人して笑っていた。
そう言って、驚いた顔を見せる彼。私は笑顔でその隣に肩を並べた。
「えぇ、そんなびっくりする?」
「心臓、止まったかと思った。」
その言葉で一瞬、昔好きだった人を思い出した。彼もよく、驚かせたときにそう言っていたから。
でも今はもう、好きだなんて思っていない。
好きになってよかった。とは思っているけれど、いい思い出にできている。
だって私は既に、他の人に本気で恋をしているから。あの時よりずっと落ち着いていて、楽しい恋愛をいているから。
「美優もアイス買いに来たの?」
彼の声でふと我に返る。そして問いかけに答えた。
「そうだよ、蒼汰も?」
「うん、暑くて。」
「ほんと、気温バグだよね。」
そう二人して苦笑いし、ショーケースを覗き込む。
先程まで考えていた昔のことは、もうすっかり頭から抜けていた。
軽快なBGMにピンポンという入店を知らせる合図が音を奏で、同時に「いらっしゃいませー」と誰かの声が響く。それでも私の耳に届くのは、自分自身の鼓動音と彼の声だけ。
冷たいボックスの中に手を突っ込み多種多様なアイスを手に取ってみる。そうやって迷っているように見せるが、実は違うのだ。
少しでも彼との時間を先延ばしにしたくて、「せめて彼が選び終わるまでは。」とそういう魂胆だった。
だけどいくらここでアイスを選別していても、彼が早々にいなくなってしまうんじゃ意味がない。
「俺、これにしよ」
すると蒼汰は片手で食べられるソーダ味の氷菓アイスを手に取ってそう言った。。
行ってしまう。せっかく会えたのに。この機会を逃せば夏休みが終わるまで、またしばらく会えなくなってしまう。
まだ、もう少しだけ一緒にいたい。そんな気持ちが、そんな気持ちだけで頭がいっぱいになっていく。
「美優はどうするの?」
だから私は勇気を出して声を発した。
「あ、のさ。」
私の言葉に彼がこちらを見つめ、その優しい瞳で続きを待っている。
震える手を両手で握りしめ、いつもより一歩大きく前に踏み出す。
「よかったら、近くの河川敷で一緒に食べない?」
彼の問いかけとは少しズレた回答だったと思う。
それでも蒼汰は嫌な顔一つしない。
ドクン、ドクン、とさらに鼓動が高まっていく。
彼が口を開くまでの時間が私には長く、長く感じられた。
「うんいいよ、一緒に食べよー。ていうか最初からそのつもりだったよ」
しかし彼はさも当たり前かのように笑い、そう返答した。
私の不安は簡単に打ち砕かれ、思わず拍子抜けしてしまう。
でも、うん。なんだか今日は行ける気がする。私の脳内信号も青色に光っている。
「じゃあ私、これにする!」
そして、ようやくまともに見れるようになったアイスたちを一瞥し、その中で一番高いカップアイスへと手を伸ばした。
自分に、気合を入れる。
それからついでに飲み物も手にとって、商品を購入した。否、買おうとした。
「俺が払うからアイスと飲み物、かして。」
「え、いやいいよ!大丈夫!」
「いいから」
「あ、えっと。じゃあ、お言葉に甘えて。」
断る私に無言で手を差し出す彼。その手に渋々商品を渡し、会計を済ませてもらった。
「ありがとうございましたー」
そんな声と共に涼しい店内から地獄のような暑さへと逆戻りし、私は彼にお礼を言う。
「奢ってくれてありがとう。」
申し訳無さはありつつも、好きな人にされたことだもん。嬉しいに決まってる。
「このくらい全然、気にしないで」
すると彼はいつもの、にこやかな笑顔でそう返した。
「美優は歩き?」
「うん」
「ん、じゃあ歩くわ」
ミーンミーンとセミが鳴いている。
すぐ隣では彼の押す自転車がカラカラと音を立てていた。
「コンビニ涼しかったから、外余計暑いねー」
そんな中会話が振られる。
「ほんとね、早くアイス食べたいなー」
君の側で過ごすコンビニはちっとも涼しくなんてなかったけど。なんてそんなセリフ、言えるはずもなく私はそれに肯定を示した。まあ外が暑いというのも、アイスが食べたいというのも、全部本当のことではある。から嘘はついていない。
そうやって自分を納得させた後も会話は弾み、体感的には早い段階で河川敷へ到着した。私は上から三段目、アスファルトの階段に座り、一息つく。
川から吹いてくる爽やかな風が、心地いい。
「よいしょ」
そして彼は自転車を端に止め、私の一段上に腰かけた。
二人口を開かずボーっとする。自然体で気持ちの良い時間が空間を支配していた。
しかし私達は忘れてはいけない。熱に弱い冷たい食べ物を所持しているということ事実を。
彼も気がついたのだろう。慌ててそれを取り出した。
「ごめん。なんか心地よくて、忘れてた。」
「溶けちゃったかも。」と申し訳無さそうにする彼からアイスを受け取り、蓋を開ける。カップの中のアイスは溶けかけてはいるものの、なんとか形を保っていた。
「やっぱり溶けてきてるね。」
そう言いながら蒼汰は自分のアイスも開け、何も言わずにがっくりと肩を下げた。
「仕方ないよ、夏だもん。早く食べよう」
なんとかフォローを入れ溶けかけのアイスを食べ始める。
少しして。彼もそれを食べ始め、再び言葉の無い時間が訪れた。
冷たさが口いっぱいに広がり美味しさを噛みしめる。
彼も同じ気持ちだろうかと思い、ちらりと隣を見てみる。
蒼汰は、木の棒すら刺さらない状態のアイスを悪戦苦闘しながらなんとか食べ進めていた。
その様子がなんだかおかしくて私は、思わず笑みがこぼす。
「笑わないでよー」
なんて言いながらも、結局は二人して笑っていた。