大学二年生の夏。蝉の鳴き声が煩わしく感じられる暑い日のことだった。
 学校で講義を受けたその帰り道。アイスでも買おうかと、照りつける太陽光から逃げるようにしてコンビニへと駆け込んだ。ピンポンという軽やかな入店音とともにクーラーの冷気が全身を包みこむ。それは熱の持った私の体を一気に冷ましていった。
 そして、考えることは皆同じなのだろう。
 いつもは()いているはずであるこのコンビニも、今日はお客さんでいっぱいだ。ここの店員さんがあんなに活発に動いているところを何気(なにげ)に初めて見たかもしれない。二つ設置されているレジはどちらとも数人の列ができていて「ありがとうございましたー」という声と数パターンの電子音がせわしなく鳴り続けている。
 そんな状態の店内をスムーズに歩くことはなかなかに難しくて、何度も人とぶつかりそうになりながら、謝りながら前へと進む。
 道中お菓子コーナーへ寄り道していると、アイスがなくなってたらどうしよう。なんてきっとありえないだろう不安がふと浮かんできた。しかし私のコンビニへの信頼は絶大であるため、そんな考えはすぐに消え去る。その代わり種類は少なくなってるんだろうな。なんて別の感情が生まれてしまったけれど、何かしら好きなものはあるだろう。
 そんなくだらないことを考えている間に、レジにできていた列は解消され今は台一つで場を回している。
 私が来たときがちょうどピークだったのか、先ほどと比べ店内はずいぶんと落ち着いていた。
 また人がたくさん来る前にさっさと購入してしまおう。そして早く帰ろう。
 そう思って店の奥側にあるアイスのもとへと足早に向かった。
 しかし向かった先、一歩手前で立ち止まる。それは人が多くて前へ進めないわけでも、アイスがなくて買うことができないわけでもなかった。
 すっかり冷たくなった体がじわじわと熱をもち、鼓動が高まっていく。
 私は深く、冷えた空気を吸ってから口角を上げた。緊張を紛らわすようにぎゅっと拳を握りしめ、目の前にある少し大きな背中に触れた。