「ところでさっきは何故ため息をついていたのかな?何か悩みでも?」
「えっ……と…」
今度はこっちに矛先が来たと蘭は焦る。相談しようかどうしようか迷った結果、打ち明ける事にした。
「実は、蝶子の事なんですが……」
「帰蝶様の事ですか?」
「あれ?もう知れてるんですか?」
「えぇ。昨日通達がありました。これからは帰蝶様とお呼びするようにと。素敵なお名前を贈られたと、家来一同噂していたんですよ。」
光秀がにこにこしながら言うが、反対に機嫌が悪くなる蘭。それに気づいた光秀が顔を覗き込んできた。
「どうしました?」
「いえ、あの……う~ん、何て言ったらいいのかわかんないんですけど……」
「はい。」
「面白くないんです。」
「面白くない?何が?」
蘭は思い切って、首を傾げる光秀に複雑な胸の裡を吐き出した。
「それって……嫉妬なんじゃないのかな。」
「へ?嫉妬!?何で?」
「何故って。話を聞く限り、そうとしか思えませんが。」
「はぁ!?ない!ないないない!」
全力で首を降る蘭に苦笑いしながら、光秀は言った。
「まぁ、嫉妬とまではいかなくても、帰蝶様と信長様の間に特別な何かがある事を気にしているという事かな。君も純情な所がありますね。」
「ばっ……変な事言わないで下さいよ、もう!俺は別にあいつの事なんか何とも思ってないし。それより光秀さんこそどうなんです?好きな人とかいないんすか?」
「……っ!」
半分仕返しのつもりだった。だが思った以上に反応があった。蘭はビックリして光秀を凝視する。普段はクールな表情がみるみる間に真っ赤に染まった。
「あ、あの……すみません。調子乗りました。忘れて下さい……」
「……私のは、身分違いの想いですから。生涯叶う事はありません。」
「光秀さん……」
その何とも言えない表情から、いくら鈍感な蘭でも気がついた。
「それってもしかして……」
「蘭丸!」
「え?あ、秀吉さん……」
急に廊下から大声で呼ばれて驚いて振り向くと、秀吉がいた。肩で息をついている。走ってきたのだろうか。珍しいと思っていると徐に口を開いた。
「帰蝶様がお呼びです。市様のお部屋に来るようにと。」
「え!?わかりました。ありがとうございます、秀吉さん。」
秀吉に礼を言い光秀に頭を下げると、蘭は廊下を走った。
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