「あぁ~……ビックリした。まさか市さんが光秀さんを……」
「ん?市と光秀がどうしたって?」
「げっ……私、声に出してた?」
蝶子は焦りながら、前を歩く信長の顔を覗き込んだ。
「いや、全部は聞いていない。名前が耳に入っただけだ。」
「そ、そう。……良かった。」
聞かれていないと知ってホッとした蝶子だった。
「ところで何の用事?話があるからって言われて来たけど、ここって……」
「あぁ、俺の部屋だ。」
信長に案内されて着いた所は何と信長の寝所。蝶子は大人しく着いてきた事を若干後悔した。
夕方になって蘭が市の部屋に来てくれて三人で話をしていた時、信長がやってきて蝶子に話があると呼び出した。
自分がいない間にイチから連絡がくるかも知れないと断ろうとしたが、気を利かせた蘭に『俺がいるから大丈夫。』と言われて今に至る。
(まったく……蘭の奴!変なところで気が利くんだから……)
心の中で呟いてると、先に部屋に入った信長から急かされた。
「何してる。早く入れ。寒いだろう。」
「あ、はい……」
躊躇しながらも襖を閉めた。そして信長の言葉を反芻する。
『寒い』
そう。蘭と蝶子がここに来たのはまだ初夏だった。でも今はめっきり寒くなり、虫の泣く声や寒風が時の流れを感じさせる。確実に半年はこの世界で過ごした事になるのだ。
そんな風に感慨に耽っていると、後ろから信長の声がした。
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