「どういう事……?全然わからないわ。あんたが何を言いたいのか。」
蝶子の言葉にうんうんと頷く蘭だった。いや、もはや蘭の頭の中はハテナマークだらけだ。
「偽の書状は本当で……何だかややこしいな。とにかくその書状は義元から見たら本物と思わせなければいけない。その上で更に嘘をつくのだ。」
「それが『信長から狙われている。匿ってくれ。』という事ですか?」
「そうだ。」
「何でそんな嘘をつかなきゃいけないのよ?」
「蘭丸は密偵に行くのだぞ?一日で何がわかる?」
「あ……」
蝶子が口を開ける。蘭も同じような顔になった。
(そうだ、密偵って事は何日か張りついてないと情報が得られない。という事は……)
「狙われている振りをして城に居座れと、いう事ですね?」
「あぁ。筋書きは、尾張から駿河に来る途中で誰かが後をつけてくるのに気づいた。よく見るとそれは織田家の家臣だった。何故見張られているのか考えたところ、一つだけ思い当たる節がある。それは信長に歯向かった事。信長はきっとそれを根に持ち、自分を抹殺しようとしているのだ。今川に書状を持って行けと命令したのもわざとに違いない。だから一目散に逃げてきた。……とまぁ、こんなところか。」
「あんた……小説家にでもなったら?凄い想像力ね。」
「小説家?何だ、それは?」
信長のごもっともな質問に、蝶子ががっくりと肩を落とした。当たり前だ。この時代に『小説家』という言葉はない。
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