「話します……」
「よし。申してみよ。」
 光秀や可成の前で信長の力を見せる訳にはいかない。仕方なく、この間裏山に行った時に信勝と会った事。会った事を内緒にしてくれと言われた事を話した。

「そうか。あいつが裏山に、ね。何をしていたんだ?」
「えっ?いえ、特に何もしていませんでした。ただボーッと景色眺めてただけで。」
「景色?どの辺りをだ?」
「えーっと確か……そうだ!この清洲城の方角でした。」
「…………市。」
「はい…………」
 突然信長が市の方に向き、強張った表情で聞いた。

「お前最近、信勝から連絡なかったか?」
「いえ、ございません。」
「本当か?嘘をついたらただでは済まんぞ。」
「嘘ではございません。」
 同じ言葉を繰り返して頭を下げる市だった。

 信長の急な変わりようにその場にいた全員が呆気に取られている。これまで信長は市に対してこんな態度をとった事はなかった。妹として大切にしているのだと感じていた。
 それなのに、一体どうしたというのだろう――?

「ちょっと、ちょっと!何なの?嘘じゃないって言ってんじゃん。それに何で急にキレてんの?信勝って誰?」
 そこへ救世主、もとい蝶子が間に入って市を助けた。気を削がれた形になった信長は一度咳をすると言った。
「信勝は俺の弟だ。市の弟でもある。……秀吉、光秀、可成。すまんが席を外してくれ。」
「かしこまりました。」
「承知いたしました。」
「失礼いたしました。」
 三人ともが廊下に出て障子が閉まる。廊下を歩く足音が聞こえなくなってからも、数分は誰も何も言わなかった。

「実は、信勝と市も『共鳴』の力で通じている。」
「えっ!?」
 蘭と蝶子は思わず市の方を向いた。市は未だに頭を下げたまま、少し震えていた。

(そっか。市さんが自分の力の話をしてくれた時、『共鳴』できるのは信長とお父さんとあと一人って言ってた。その三人目が弟の信勝さんだったんだ。)

 蝶子はその話を聞いた時の事を思い出していた。

「一度に『共鳴』できるのは二人だけ。三人となると複雑だからな。難易度も高いし、一晩寝込むだけでは済まない程、体力が消耗する。それに俺は市としかこの力は使わん。親父や信勝とは使った事はない。」
「ど、どうしてですか?」
「わかり合いたいと思わないからさ。」
「そんな……」
 蝶子が茫然とすると市が頭を上げた。

「お兄様。本当にわたしは信勝とは連絡をとっておりません。お兄様と一緒にこの清洲城に来たのですから、いくら弟といえども敵なのですっぱり縁を切っています。」
 ハッキリとそう言う市に満足そうに頷いた信長は、右手に持っていた扇子を左手で弄んだ。

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