確かこの戦で斎藤道三は死ぬ。息子の家来にやられて首を取られるのだ。
 でも信長はもちろん、ここでは死なない。助けに行くけど間に合わないっていう結末のはずだ。
 しかし蘭がここにいる理由は、これから起きる事を知っているから。それを信長に教える事が自分の役目なのだ。

(でも俺は……ただの学生で、大まかな流れしか知らないし、そもそもここは違う世界かも知れないんだ。不用意な事を言って、それこそ歴史が変わっちゃったら……って俺達のいた未来には影響はないんだっけ。いや、でも……ええい!どうせ俺が言わなくてもまた心眼とやらで心の中を視るんだろ!視るなら視ろ!今ならオープンだから!!)

 その時、ふっと笑う気配がして、恐る恐る顔を上げたら信長が心底愉快そうに笑っていた。

「そんな顔するな。まるで俺が虐めてるみたいじゃないか。」
「へっ?」
「これから戦に行くのに、力を使う訳にもいかんからこうして正面から聞いているのに、そんなわかりやすい顔をして……」
 頭に手を当てて『やれやれ……』とでも言いたげな表情をする。蘭は慌てた。
「俺……僕、どんな顔してました?」
「『俺』でよい。いちいち言い直されると勘に触る。」
「あ、はい…すみません……」
「心を読むまでもない、という事だ。お前の考えてる事はわかった。……本当にそうなんだな?」
「……はい。間違いありません。」
 しばらくじっと見つめてくる。何だかわからないが考えてる事が顔に出てたようだ。そういう事なら、と蘭も同じように見つめ返した。力を使っていなくても通じるように。

「よし。そうとわかれば急いだ方がいいな。今から出れば間に合うかも知れん。……サル。」
「お呼びですか。信長様。」
 甲冑を着た秀吉が現れた。信長は立ち上がると、傍に置いてあった軍配を手に取った。

「いざ、参るぞ!」

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