光秀に連れられて大広間に着いた時には、信長は既に甲冑を身につけて出陣の準備をして待っていた。
「信長様!連れて参りました!」
「早く入れ。」
「はい!」
蘭と蝶子は光秀に背中を押されて、部屋の中に入る。戸惑いながら歩を進めると、信長は光秀とその後ろの勝家と先に部屋にいた秀吉に向かってこう言った。
「お前達も準備しろ。俺はこの二人と話をしたらすぐに行く。」
「はっ!」
三人は揃って返事をすると戸を閉めて出ていった。
「お兄様……行くのですね。」
「あぁ。濃姫の父親なんだ。行かない訳にはいかないだろう。」
一緒に来た市に聞かれておどけた調子で言うが、表情は真剣そのものだった。
「立ったままではゆっくり話もできん。まず座れ。」
言われるまま信長の前に並んで座ると、市も少し離れた所に座った。
「蘭丸。俺の言いたい事はわかるな。」
「……はい。」
眼光鋭く見つめられ、蘭は体を縮こまらせながら小さな声で返事をした。
信長の言いたい事。それはきっとこうだ。
『この戦で勝つのはどっちだ?』
蘭は一度目を瞑ると震える声で言った。
「……言えません。」
反応が恐くて顔が上げられない。蘭はそのまま消えてしまいたい衝動にかられた。
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