「何ていうか、織田信長のイメージが変わったなぁ。一言でいうと掴みどころがないって感じ。さっきのだって本心なのかからかってるだけなのかわかんないや。はぁ~……俺も欲しいな。『心眼』の力。」
 ため息をつきながらてくてくと森の中を歩く。森といってもほとんどハゲ山みたいな山だから、そんなに木は多くない。切り株が少ない事から、伐採して無くなったのではなく、戦火で焼失したのだろう。その光景からも現実を突きつけられた。

「でも、力の事を嫌いだって言ったのは本音なのかも。」
 代々受け継がれてきた能力だと言っていた。それはきっと産まれた瞬間から備わっていたものなのだろう。物心ついた時に自分には人と違う力があるって気づいた時、一体どんな気持ちだったんだろう。
 もしかして、信長が結婚したくない理由って……

「あれ?誰かいる……」
 ふと顔を上げた時、少し先に人影を見つけた。タイムマシンの残骸がある頂上はまだまだ上だったが、気になったので蘭は声をかけてみる事にした。
「あの~…こんな所で何してるんですか?」
「何だ、お前は?」
 振り向きざまにギロリと睨まれて若干怯むも、その人物の背格好が自分と同年代であると思った蘭は構わず話し続けた。

「俺、そこのお城で家来やってる森蘭丸っていいます。貴方は?」
「……兄上の家来か。家来が何でこんな所にいる?仕事を怠けたら後できつい処罰を受けるぞ。早く帰った方がいい。」
「あ、その辺は大丈夫です。ちゃんと許可は取ったんで。っていうか、今『兄上』って……?」
「あぁ。俺は織田信長の弟の織田信勝。少し離れた所にある末森城の城主だ。」

(末森……?どっかで聞いた事ある言葉だな。……そうだ!捕まった時秀吉が言ってた。『末森からの密偵か?』って……)

「自己紹介しといて何だが、ここで俺と会った事は兄上には内緒にしといてくれないか。」
「へ?どうして?」
「兄上は俺の事、嫌いだから。……まぁ、お互いさまだけどな。」
 そう言うと、踵を返して山を降りていく。蘭はその後ろ姿を呆然と見送った。
「仲悪いのか?兄弟なのに?」
 蘭はひとりっ子だから兄弟の事は良くわからないが、今の信勝の言い方は気になった。

 しばらく見送った後、一度肩を竦めると頂上に向かって歩き始めた。

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