説明しよう。

 パラレル・ワールドとは、ある世界から分岐し、それに並行して存在する別の世界を指す。並行世界、並行時空ともいう。
「異世界(異界)」、「魔界」、「四次元世界」などとは違い、パラレルワールドは我々の宇宙と同一の次元を持つ。この事は理論物理学の分野からもその可能性について議論されている。


「パラレル・ワールド!?」
「あり得ない話じゃないでしょ。以前父さんの書斎で読んだSF小説にそういうやつ、あったわよ。タイムスリップしたら元いた世界とそっくりな世界に辿り着いて、安心したのも束の間、そこは全然別の文化やしきたりがある世界で、主人公は苦労しながらそこに馴染もうと奮闘するんだけどこれが中々大変でね。でも努力家な主人公は必死に頑張って運命の人とも巡り合って子どもも授かって……しかも子だくさんなものだから経済的にはちょっと苦しかったけれど、家族皆で一生幸せに暮らしたっていう感動の物語……」
「一生暮らしてんじゃねぇか!最後は帰れるんじゃねぇのかよ!」
 思わず突っ込んでしまった蘭を目をパチパチさせながら見る。そして気を取り直すように深呼吸すると、口を開いた。

「人の話は最後まで聞きなさいよ。この話は戻れずにその世界で一生過ごすって内容だったけど、私達までそうとは限らないじゃない。それに今のはあくまでも小説の中のお話。私達がいるのは現実の世界よ。これからの生き方次第で未来は変わるって思わなきゃ。パラレル・ワールドは何が起きても元の世界には何の影響も及ぼさないはず。だからこの世界で本能寺の変とやらが起きないように画策すれば死ぬ事はないし。」
「でも助けが来なきゃ、どっちみち帰れないぞ……?」
 弱気な事を言う蘭の頭を蝶子が思いっ切り小突いた。
「いてっ!」
「何弱気な事言ってんの!父さんにばっかり頼らないで自分でも何とかしようと思わないの?」
「だってさ……」
「はぁ~……仕方ないわね。いいわ、私が調べてみる。」
「調べるって何を?」
「あの裏山に放置してきたタイムマシンの残骸。蘭、明日あれを拾ってきて。」
「えぇ!?俺が?一人で?」
「当たり前でしょ?私は今お姫様……ううん、織田信長の御正室なんだから。私が行く訳にはいかないでしょ。これは命令よ、『蘭丸』!」

 傲然と言い放った蝶子を、鬼でも見たような顔で見つめる蘭だった……

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