翌日。蘭と蝶子は市の部屋に来ていた。昨日から頭がハテナだらけの蘭と最初から挑戦的な目を信長に向ける蝶子であったが、突然四人の人物がぞろぞろと部屋に入って来た事で二人共ポカンと口を開ける。
四人は蘭達の隣にこちらを向いて座った。
「まずサル……藤吉郎とは挨拶を済ませたな。では光秀。自己紹介しろ。」
「はい。」
一番右に秀吉がいて、その隣にいた人物が信長の言葉に従って立ち上がった。やはり始めて信長に対面した時に、部屋の支度を命じられていた人物だ。
「明智光秀と申します。信長様についてまだ日が浅く、ここにおられる方々よりも若輩者ですが、よろしくお願いします。」
(うわ~真面目。テキストで読んで想像していた通りの人だなぁ~)
そんな感想を抱いていると、光秀の隣にいたちょっと強面の人が勢い良く立ち上がって大きな声で言った。
「柴田勝家と申す!よろしく!」
「ひっ!ひぃぃぃ~…よ、よろしく、お願いします……」
「勝家……二人が怯えています。もう少し声を抑えて下さいな。」
「申し訳ありません、市様!」
「だから……」
注意しても全然直らない大声に呆れていると、信長が愉快そうに笑った。
「いいじゃないか、元気で。これがこいつの普通なんだよ。とまぁ、こう見えてもこの柴田勝家という男は情報操作が得意でな、今回の祝言に関して大いに活躍してくれた。」
「活躍?」
「濃姫の事を道三の娘として紹介したと言っただろう。しかし美濃の国には本物の濃姫がいる。俺が結婚した事はいずれ知れ渡るが、対策がない事もない。」
そう言って一旦言葉を切ると、勝家の方を向いて顎をしゃくった。続きを言えという事のようだ。
「はっ!俺は美濃に行ってまず道三氏に面会しました。事情を説明して本物の濃姫さまにも了解を取り付け、誰かから聞かれた際には話を合わせるようにとお願いしてきました。」
得意気に説明する勝家を、蘭は尊敬の眼差しで見つめる。
(柴田勝家と言えば少々荒っぽくてワイルドなイメージだったけど、こんな細心の注意が必要な交渉術なんてものがあったのか。)
と、若干失礼な事を思った蘭だった。
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