その頃、蘭は厨房で次から次へと運ばれてくる食べ終わった後のお膳の皿洗いに追われていた。

「終わんねぇ……」
 一度手を止めて息をつく。周りを見ると洗った後の皿よりも洗う前の物の方が明らかに多い。いつ終わるともわからないこの状態に泣きそうになっていると、一緒に皿を洗っていた家来の一人が声をかけてきた。
「お前も散々だよなぁ。城に来て早々、こんな大きな行事に駆り出されるなんて。どうせ家では何もしてこなかったんだろ?森さんらしいよな~。でもここでは家来になって最低で三年は台所番だから。俺は今年で三年。お前が来てくれたからもうすぐ卒業かもなぁ。」

(良く喋る人だなぁ~……っていうか!)

「あ、あの!今何て言いました?」
「うん?台所番卒業かもなって。」
「違います。その前!森さんがどうのって……」
「え?お前、森さん……信長様の家老候補である森可成(よしなり)さんの息子じゃないの?俺ら、そう聞いてるけど。」
「へっ?あ、え……っと……」

(げっ……これってマズイ状況?良くわかんないけど俺って、森何とかさんの息子って事になってんのか……?)

 蘭は頭の中にハテナマークを浮かべながら、何とか気を取り直すと言った。
「そ、そうです。息子です!」

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