「……お帰り。」
「うん。ただいま。」
清洲城に着くと真っ先に蝶子が出迎えてくれた。市やねね、光秀は気を遣って遠巻きに見守っている。
蘭は久しぶりの再会に変な気持ちになりながらも、荷物を置いて蝶子を真正面から見つめた。
「待っててくれてありがと。それにお前のお陰でタイムマシンを取り寄せる事が出来た。本当に良くやったよ。」
「バカね……モニター一つくらいどうって事ないわよ。それに頑張ったのはあんたでしょ。敵の懐に乗り込んで一年以上も……本当に、毎日気が気じゃなくて……でも無事に帰って来てくれて、良かった……!」
「蝶子……」
蝶子が勢い良く抱きついてくる。蘭はよろめきながらもしっかりと抱きとめた。そしてポンポンと優しく叩く。
「泣くなって。」
「ぐすっ……泣いてないもん……」
「泣いてるじゃん。」
「うるさい!」
思いっ切り胸を叩かれる。蘭の力が抜けた隙に素早く離れると、蝶子は涙を拭って腰に手を当てるといういつものポーズをした。
懐かしいその仕草に蘭は思わず吹き出した。
「庭に来て。」
蝶子はそれだけ言うと、すたすたと廊下を歩いて行った。
「おぉ~~!」
「どう?まだ半分も出来てないけど。時々モニター通して父さんにアドバイスもらってるんだ。」
庭に着くとまだ組み立て途中のタイムマシンがあった。蘭が想像していたよりも進んでいて、思わず歓声を上げる。
『へぇ~』なんて言いながらタイムマシンの周りをぐるりと回っていると、後ろをついてきた蝶子が遠慮がちに言った。
「あのさ、蘭……」
「ん~?」
「もうすぐ桶狭間の戦いってやつが起こるんだよね?」
「あー……うん。」
戸惑いながら頷くと、蝶子は思い切った様子で顔を上げた。
「タイムマシンが完成したら、その桶狭間の戦いが起きようが起きまいが、私達は帰るんだよね?」
「蝶子……」
「ねぇ?私もう、あんたの帰りをじっと待つなんて出来ないよ。どれだけ心細くて心配したか……タイムマシンが出来たらさっさと戻るって約束して?ね?」
詰めよってくる蝶子。蘭は慌ててその肩に手を置くと小さく首を振った。
「ごめん……約束は出来ない。」
「どうして……?蘭だってこんなとこ早く出たいでしょ?」
「そりゃ早く帰りたいけど、俺にはやらなきゃいけない事がある。」
「……信長を守る事?」
「あぁ。」
「…………」
頷くと蝶子が鋭い目で睨んでくる。内心怯んだ蘭だったが目は逸らさなかった。
「はぁ~……そう言うと思ったわ。」
「え?」
「まったく蘭は……こうと決めたら梃子てこでも動かないんだから。泣き落としにもびくともしないし。」
「泣いてなかったぞ?むしろ脅っ……」
「はぁ?」
「イエナンデモ。」
殺気を感じて慌てて顔を逸らす蘭だった。
「信長がどうなろうが知ったこっちゃないけど、蘭が決めた事ならもう口は出さない。私にもこれを完成させるっていう使命があるしね。」
「お前……」
「でもこれだけは約束して。絶対無理はしない事。帰る時は一緒じゃないと許さないんだから!」
「……うん、約束する。」
「よしっ!じゃあ指切りげーんまーん!!」
にっこり笑って指切りを強要してくる蝶子に、蘭は苦笑しながら小指を出したのだった。
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