「晨」

 吐息のような声に、心臓が跳ねる。

 恐怖を感じた。

 本当に消えてしまいそうで。

 雪のように溶けてしまいそうで。

 肩には温もりと重みを感じているのにもかかわらず、真白存在が消滅してしまう気がして、晨は真白の身体を強く抱き締めた。

「真白、ごめんね」

「何が?」

 腕の中でくぐもった声が聞こえる。

 相変わらず感情が欠けており、心臓が煩く騒めく。

「真白が辛そうなのに、何もしてあげられなかった」

「そんなことない。私、晨の温もりに助けられたよ。晨の声に帰る場所を思い出した。だから、ありがとう」

 そう言われても、やはり不甲斐なさを払拭できず、晨は首を振った。

「晨」

「うん」

「晨が過去の話をしてくれた時、私、嬉しかったし、すごいと思った」

 真白が顔を上げた気配を感じ、晨は腕の力を抜いて、真白の顔を覗き込んだ。

 そこにあったのは無機質な人形ではなく、泣き笑いを浮かべる真白の表情だった。