「……帰りたい」

 真白の言葉が、晨の胸を締め付け、呼吸を止めた。

(ありがとう。俺の言葉に耳を傾けてくれて。俺のことを見てくれて)

 言いたい言葉は、やはり口にはできず、「うん」と小さく呟く。

 それから、なんとか立ち上がった真白を支え、二人の家に帰ることにした。




 家に着くと、晨は真白をソファーに座らせ、ココアを入れた。

 その間、真白はまるで人形になったかのように動かず、魂が抜けているような姿に胸が強く締め付けられる。

 帰ってきてくれたことは、奇跡かもしれない。

 それくらい、真白の様子は尋常じゃなかった。

 晨はココアを真白の手に握らせ、「飲んで」と優しく告げる。
 
 真白は機械的に受け取り、無言でマグカップに口をつけた。

「……温かい」

「そうだね」

 晨も隣に腰を下ろし、そっと真白の頭を撫でた。

 すると、真白は一瞬、視線だけを晨に向け、肩にもたれかかった。

 真白の重みに目の奥が熱くなる。

 真白が抱えているものが何であれ、真白の心を壊してしまうほどのものなのだろう。

 自分にできることなど、ないかもしれない。

 それどころか、この期に及んで、真白が取り乱した原因を聞いていいものか、迷っている。

 時の流れる音が聞こえそうなほどの静寂は、晨の呼吸を乱そうと足掻いているようだ。

 隣から衣擦れの音が聞こえて、晨は下げていた顔を上げた。