先程から、二人の横を何人もの人が歩いていく。

 火事の現場の方角に向けて。

 野次馬だ。

 晨は不謹慎な人々の様子に、思わず舌打ちをした。

「真白……お願いだから、ここから逃げよう。ああ、でも、俺の声、聞こえないのかな」

 真白は相変わらずガタガタと震え、大粒の涙を零している。

「お願い、嘘だって言って……私を一人にしないで。お父さん、お母さん……!」

 晨はハッとし、反射的に真白の身体を強く抱き締めた。

 震えを止めてあげたくて、強く強く抱き締める。

 過去に戻っているだろう意識を、自分に向けさせようと、精一杯、背中を(さす)り、頭を撫でる。

 しかし、何もかもが無駄に思えた。

 自分はなんて無力なんだろう。

 悔しい。

 真白が苦しんでいるのに、自分にできることは抱き締め、撫でることしかできない。

 自分の不甲斐なさに、晨は唇を噛み締めた。

 王子様のような男だったら、横抱きにして、颯爽とこの場から真白を逃がしてやれただろう。

 経験豊富な大人の男性だったら、もっと上手く対処してやれるだろう。

「真白、ごめん……本当にごめん。俺なんかが、真白を守ることはできなかった。こんなに辛そうなのに、不器用に抱き締めることしかできないなんて……俺の存在を思い出してもらうこともできない」

 晨はそっと身体を離し、真白の涙を拭う。

 引き攣った真白の頬にキスをして、次から次へと涙が零れ落ちる眦に唇を寄せ、懇願するように何度もキスをした。