隣から小さな叫び声が聞こえ、晨は慌てて真白に視線を戻した。

 両耳を塞ぎ、暗くてもわかるくらい、ガタガタと全身が震えている。

「真白! 大丈夫⁉」

 真白には晨の言葉が届かないのか、しゃがみ込んで、何度も何度も首を振って、何かを呟いている。

 晨も隣にしゃがみ、真白の顔を覗き込んだ。

 暗さのせいで、顔色まではわからない。

 だけど、涙をいっぱい溜め込んだ大きな目は、恐怖で揺れているのはわかった。

「立てる? ここから離れた方がいい」

 晨は真白の腕を掴み、引っ張り上げようとした。

 しかし、真白の身体は硬直したように固く、晨の力ではビクともしない。

 そうしているうちに、遠くからサイレンの音が聞こえてきた。

 今更ながら、これが火事だと思い至る。

 黒煙が上がり、空を赤く染めるくらいの炎がすべてを焼き尽くしている音が聞こえ始めているが、晨は真白の様子が気になって、そんな単純なことに気付けなかったのだ。

「やだやだ! 早く、消してよ! お願いだから、誰もいないって言って……!」

 真白から聞こえてきた声色は、まるで地獄を見ているかのように恐怖と絶望に染まっている。