いつの間にか、雨が止み、わずかに開いた雲の隙間から夕陽が漏れ出ている。

 茜色の陽射しがレースのカーテンを通して、優しく真白の顔を照らした。

「……ん」

 顔をしかめた真白から、ようやく声が上がった。

 その声がまるで寝ぼけている時のようで、張り詰めていた神経が緩んだ気がした。

「真白、大丈夫?」

 晨は真白の額にそっと手を当てた。

 そこがひんやりしていることに気付き、自分の気遣いのなさに落ち込む。

 今に始まったことではないけど、もっと大切にしてあげたいのに。

 深い傷を負っている彼女を労わってあげたい。

 傷を癒すなんて、烏滸(おこ)がましくて、到底言えない。

 ただ、ほんの少しでも、真白の傷を覆ってあげられたら、と思う。

「あのさ、もしかしたら聞きたくないかもしれないけど、俺の話をしてもいい?」

 晨の決意。

 それは紘一の話をすることだった。

 真白に心を許してほしい。

 傷を見せてほしい。

 そう願うなら、まずは晨が見せることだ。

 真白は晨の真剣な顔を見つめ、注意深く観察している。

 真白もわかっているのだろう。

 晨が話そうとしている内容が普通ではないこと。

 そして、晨の抱える問題であること。

 しばらく悩んだ様子の真白だったが、真白なりの決心をしたのか、真剣な表情を見せ、はっきりと頷いた。

「聞かせて」

 晨はその言葉を聞き、大きく深呼吸をした。

 この話をするのは、初めてだ。

 両親や警察にはどうしても説明せざるを得なかったが、必要最低限に留めた。

 その上、晨が心に負った傷は奥深くまで隠してしまったから、両親ですら知らない。

 それから、晨はあの日の出来事を含め、紘一との関係や二人で過ごした時間について、何度も詰まりながら、真白に話して聞かせた。