腕の中で顔を上げた真白を至近距離から見つめ、晨は真剣な表情を浮かべた。

 真白は動揺し、視線を彷徨わせる。

 晨は真白の濡れた目元に触れ、そっと撫でた。

「唯一の親友を、俺が殺したんだ。コーヒーはその人が好んでいたものだ。だから、俺はコーヒーが苦手でも飲む。その人は俺の水彩画を気に入ってくれていた。でも、もう見てくれる人がいないから、俺はデジタルでしか描かない。こんな俺が生きている資格なんてない……俺も、本当は殺してくれる人を探していたのかもしれない。だから、真白が俺を殺してよ。殺してくれたら、俺も真白を殺すから」

 真白の表情が歪み、晨の首に両腕を回して、抱き着く。

 そんな真白を晨はしっかり受け止めた。

「殺してなんて、言わないで……」

「うん」

「生きてる資格がないなんて、言わないで……」

「うん」

「ごめんなさい」

「いいよ」

 晨は涙を堪え、無理やり笑顔を作った。

 真白に言ったことは本心だ。

 嘘は一つも言っていない。

 だけど、真白にそれが伝わらなくてもいいと思っている。

 真白に晨のことを知ってほしいのではなく、真白が生きることを望んでいるのだと知ってほしかった。

 真白に『殺して』『生きる資格がない』と言わせたくない。

 言われることがどれほど辛いか、真白に気付いてもらいたかった。

 真白にこの思いが伝わったから、『ごめんなさい』と言ったのだろう。

 いや、そうであってくれと願う。

 真白はしばらく晨に抱き着いたまま、声を殺して泣いた。

 思い切り泣けばいいのに、と思ったが、今は静寂が必要だと思い、晨はひたすら真白が泣き止むのを待った。