「真白はいい子だね」

「どこが⁉ 私なんて――」

「いい子じゃない。生きていちゃダメな人間、なんだね?」

 晨が真白の言いそうなことを口にすると、真白は悔しそうに唇を噛み、そっぽ向く。

「わかってるじゃない」

「俺は真白の名前、可愛いと思うし、似合ってると思うよ。それに真白は優しいし、俺のことを気遣ってくれる。料理は上手だし、掃除も丁寧。乱雑になりがちな俺のデスク周りを慎重に整頓してくれる。デスクは、俺が困るといけないから、あんまりたくさんは動かさない。明るくて、おしゃべりだけど、本当はもの静かで、落ち着いてる。あと、面倒見もいい。気配り上手だけど、それを相手に悟らせない。こんなにいいところがあるのに、いい子じゃないなんて、俺は言えないよ」

 途中から号泣し始めた真白を、晨は抱き寄せ、背中を撫でた。

 小さな身体が晨の腕の中で震えている。

「……殺してよ」

「嫌だ」

「じゃあ、私のこと、捨ててよ」

「それも、嫌」

「……晨のバカ」

「知ってる」

 晨は宥めるように、しゃくり上げる真白を強く抱き締め直した。

 外から聞こえる雨音が、晨の傷を疼かせる。

 だけど、今はそれ以上に真白の傷のほうが気がかりで、どうだってよかった。

「俺、人を殺したことがある」

「……え?」

「だから、真白のことも殺せるかもしれない。そう言ったら、真白はどうする?」