「紘一?」

「お前の絵、す……」

 紘一は最後まで声にすることなく、動かなくなった。

「……こういち?」

 二人の周りは真っ赤に染まり、それは今尚、広がり続けている。

 濃い赤が、網膜に焼き付く。

 左腕から流れ出ている血液が、地面に広がる赤いキャンパスに加わる。

 紘一の顔は青白くなっており、そこに付着した大量の血液がやけに目立っていた。

「死んでいいのは、僕だよ。紘一じゃない。友達が紘一しかいない僕より、みんなに好かれている紘一が生きるべきなんだ。おかしいでしょ? そうだよね、紘一?」

 いつの間にか、どしゃぶりになっていた雨が、晨の声をかき消した。

「死なないで、紘一!」



 それから、晨は自分がどうやって警察や救急車を呼んだのかを覚えていない。

 ずっと夢の中にいるようで、雲の上に立っているみたいにふわふわしていた。

 記憶も朧気で、晨の中に鮮明に残っているのは『深緋(こきあけ)』の広がる世界だけだった。