「紘一……?」

 晨は震える声で、たった一人の大切な友達を呼ぶ。

 横たわる紘一の隣に座り込み、恐る恐る肩に触れた。

「あ、き」

 紘一の声は、今にも消えてしまいそうなほど弱々しく、小さな雨音にさえ、簡単にかき消されてしまう。

「紘一! 今、救急車呼ぶから。何番だっけ、えっと、待って……警察は、あれ、どうしよう。紘一が、紘一が」

 スマートフォンを持つ手がもつれ、働くことを拒絶している脳に苛立ちを覚える。

 そんな時、晨の左腕に紘一の手が触れた。

「晨……大丈夫。落ち着け」

 紘一は真っ赤になった口角を上げ、晨に笑いかける。

 しかし、それはもう紘一の笑顔らしくはなかった。

「しゃべらなくてもいいよ! 待ってて、すぐに人を呼ぶから。絶対に助けるから」

「腕、大丈夫か? イラスト、描けるか?」

 消えそう声が、晨の心臓を握り潰そうとする。

「描けるよ、いくらでも!」

「よかった……新作、楽しみに……」

 力の抜けた紘一の腕が、地面に落ちる。