「紘一は偉いな。こいつには友達が一人もいないから、同情して一緒にいてやったんだろ?」

「違う!」

「だけど、ちょっとやりすぎたな。お前のせいで、こいつが目立つようになっちゃったもんな」

「別に目立つことなんて――」

 紘一の言葉を遮るように、男の一人が顔を殴りつける。

 紘一の口から血が飛び散った。

「モテるようになって、嬉しいだろ! なぁ、晨ちゃん?」

「僕……お、俺は!」

「お? 晨ちゃん、弱いなりに、紘一を守るつもりか?」

 男たちの馬鹿にするような笑い声が、脳に不快な信号を送る。

 男たちに対しても、この状況に対しても、怒りと恐怖が入り乱れながら押し寄せる。

 何より気持ち悪い自分の存在に吐き気がした。

「俺が晨のことを好きだから、仲良くしていただけだ! それのどこが悪いんだよ! お前の彼女だって、お前よりも晨の良さに気付いただけのことだろ⁉」

 紘一の言葉が辺りに響くと、不気味なまでの静寂が訪れた。

 先程まで聞こえていたはずの雨音も、紘一が奪い取ったみたいに。

 押さえつけられていた身体が自由になり、呼吸がしやすくなった。

 晨がそう感じたのと、男の叫び声は同時だった。