「ストレス発散には、あれがいいって教えてくれた人がいたんだ」

「友達?」

「そう」

「晨の友達の話、初めて聞いた! どんな人?」

 パンチングマシーンに向かいながら、真白は嬉々とした表情で、晨の顔を覗き込んでくる。

 遠足を前に、ワクワクしている小学生みたいで、晨は思わず吹き出した。

「お節介な人だった」

「あぁ、なんかわかる。晨って、こっちから行かないと、一人の世界で生きちゃいそう」

 晨は疼いた傷の痛みを誤魔化そうと、笑った。

 そんな晨を見て、真白は怪訝な表情を浮かべる。

「その人とは――」

「ほら、真白、やってみなよ」

 晨は真白の言葉を遮り、機械にお金を入れた。

 音で溢れ返る店内でも、声は聞こえる。

 聞こえるが、聞こえなかったことにしたかった。

 その友達について話すことは難しい。

 口にしたら、晨はきっとまた壊れてしまう。