「今日はもう帰ろうか」

 晨の言葉に、真白はパッと顔を上げ、激しく首を振った。

「晨の邪魔をしたいわけじゃない。晨がまだ撮りたいなら、私は大丈夫だから、撮っていこうよ」

「ううん。ちょうど満足したところだったから、真白のせいじゃないよ。せっかく作ってくれたお弁当だから、美味しく食べて、少し寄り道して帰ろうか」

 真白は首を傾げる。

「寄り道?」

「そう。いいところ」

 真白は少し迷った末、頷いてくれた。

 それに満足し、晨は真白の髪に指を通した。

 真白の長い黒髪は一切癖がなく、毛先までまっすぐだ。

 なんとなく、本来の真白の性格はこの髪のようにまっすぐな気がした。

 根拠があるわけではない。

 本当になんとなく。

 死のうとすることに賛成はできない。

 しかし、迷いなく死を望んでいて『幸せ』に恐怖する。

 褒められる内容ではないが、そういう意味では真白の希望は最初から変わっていない。

 二人は弁当を食べ終えると、海を見ながら、少し散歩をした。

 のどかで、穏やかな時間。隣を歩く真白はもう泣いていないが、心の中はどうだろうか。

 もしかしたら、心にある傷から血が流れ出ていて、痛みを必死に堪えているのかもしれない。

 そう思うと、晨の心の傷まで疼いてきて、塞がったと思っていたところから血が滲んでくる気がした。