リュックサックから、今日の打ち合わせメモを取り出し、何度か見返す。

 今日の依頼主は定期的に仕事の依頼をしてくれる会社で、フリーランスの晨にとって、ありがたい取引先だ。

 イラストは独学で始めた。

 高校と大学は両親の望むままに進学したが、就きたい仕事はなく、惰性のように学生生活を送った晨が選んだのは、長い間、趣味でしかなかったイラストの仕事だった。

 それは、晨が積極的に得た仕事とは言い難い。

 どちらかと言うと、偶然が重なって、イラストを描くことが仕事になっていた。
 
 趣味で描いた絵をSNSに投稿していたのは、ほんの些細な気まぐれだった。

 ただ、描きたいものを描きたい時に描いて、インターネットにアップする。

 そうすると、世間が反応を示してくれ、自分の絵を好む人が多いのだと知った。

 気付けば、世間からの認知度が上がり、イラスト投稿サイトでピックアップされたことをきっかけに、企業からの依頼が入るようになった。

 その依頼を受けて、描いて、納品する。

 依頼絵以外は、相変わらず好きなように描くだけ。

 そんな毎日が続き、いつの間にか、これが仕事になっていたのだ。

 両親はイラストレーターの仕事をあまり良く思っていない。

 収入が安定しているものではないからだ。

 人気が無くなれば、仕事もなくなる。

 そうなれば、わかりやすく収入がなくなるのだから、両親の考えも理解できる。

 それでも、晨に辞めるつもりはない。