「あの……晨さん」

 恐る恐るとも聞こえる声が耳に届き、晨は構えていたカメラから視線を上げた。

 そこには申し訳なさそうにしている真白が弁当の入ったバスケットを持ち上げ、晨を見つめている。

「なに?」

「あのね。邪魔しないようにって、決めてたんだよ? でも、さすがに朝から、休憩なしで、もう三時なの。そろそろお昼にしないかな、と思って」

「え、もうそんな時間? せっかく真白が張り切って作ってくれたお弁当だから、食べ損なうわけにはいかないね」

 晨は申し訳なさそうにしながら、真白からバスケットを受け取り、見晴らしのいい場所を探した。

 海と船の見える場所に決めた二人は、さっそく弁当を広げる。

 そこには真白の頑張りと心の籠もったおかずがぎっしりと詰め込まれていた。

「真白、ありがとう」

「なにが?」

「一人で来ていた時は、昼食をとることなんて頭になかったから。気付いたら、夕方で、夕方の顔に代わった景色を撮って、気付いたら真っ暗で。今度は夜の顔を撮って。フィルムが無くなって、ようやく家に帰っていたんだ。だから、途中で休憩があるのが不思議な感じ」

「邪魔になった?」

 隣に座る真白が水筒から冷たいお茶を注ぎ、晨に手渡す。その表情は不安げに揺れていて、晨は微笑んだ。

「全然、邪魔じゃない。自分でもびっくりだけど。それどころか、この後、もっといい写真が撮れそうな気がしてきた。だから、ありがとう、真白」