「晨、晨。早く!」

 二人は海の近くにある大きな公園にやってきた。

 休日は訪れる人も多い、有名な公園だが、平日の今日は比較的空いていて、のんびりと景色を楽しめそうだ。

 真白は晨の手を引いて、満面の笑みを浮かべている。

 本当に嬉しそうで、楽しそうで。まだ何もしていないのに、そんな真白の様子だけで来てよかったと思ったことに、晨は恥ずかしくなって、真白から目を逸らした。

「まずは、どこから行くの? どんな写真を撮りたい? 私、晨が写真を撮ること、初めて知った」

 質問攻めの真白は強引に晨の前に回り込み、下から覗き込んでくる。

 興味津々といった無邪気な真白を邪険に扱うことはできない。

「いろんな風景を撮るよ。ただ綺麗なだけじゃなくて、時間の流れごと閉じ込めるようなものが撮りたい。写真って、一瞬を切り取るって言うけど、俺は時間ごと閉じ込めて、その中で時間が流れているような写真を撮りたい。自然を中心に撮るけど、人工物も撮る。頭の中を空っぽにして、ただ、目の前の風景を盗みに来たんだ」

 晨は少し意地悪そうな笑みを浮かべ、真白のおでこをこつんと突く。

 真白は驚いたように、口を半開きにしているが、パチパチと瞬きをしたと思ったら、頬に朱が差した。

「あ、晨ってさ、時々おかしくなるよね⁉」

「失礼だな」

「いや、悪口じゃなくて……おかしいって言うのはしっくりこないんだけど、私には表現する言葉が出てこないんだもん!」

 真白の頬が膨らんだのを見て、晨は離れていた手を取った。

「さて、行こうか。今日は付き合ってくれるんでしょう?」

「あっ、うん! いっぱい付き合う!」

「それは頼もしいな」

 クスクスと笑う晨の隣で、真白がどんな表情をしていたのか、晨は見るべきだった。

 あのまま嬉しそうにしていると思い込んでいたから、真白の苦しそうな表情を見逃してしまった。