カーテンを開けると、まだ明けたばかりの優しい陽光が目の前で弾ける。

 梅雨に入ってしまえば、なかなかこんなにいい天気の日はないだろう。

 もしかしたら、今日は暑いくらいの一日になるかもしれない。

 晨は家に日傘がないことに気付き、駅の地下にいくつかある店の中から見繕ってから、電車に乗ることを決めた。

 あの日。晨が強引にキスした日。

 そして、真白が晨と同じように、自分のことを『いらない人間』だと思っていることを知った日。

 真白はしばらくして泣き止むと、小さな声で「ごめんなさい」と言った。

 それに対し、晨も「ごめん」と返した。真白がどう思っているかはわからないが、晨の謝罪にはいろんな意味が込められていた。

 強引にキスしてごめん。

 真白の抱えている問題を知る勇気がなくてごめん。

 支える自信がなくてごめん。

 うまく慰められなくてごめん。

 元気になれるような気の利いたことを言ってあげられなくてごめん。

 もっともっと、言葉にできない気持ちも入っている気がする。
 
 しかし、真白はそれから真っ赤な目をして、笑った。

 笑顔を作らせてしまった。

 それが不甲斐なくて落ち込んだが、真白が何事もなかったかのように振舞いたいのなら、合わせるしかないと思ったのだ。

 だから、その後、あの出来事についても、真白の抱える何かについても触れることなく過ごしている。