「殺せって言うくせに、どうしてそんなにも悲しそうな顔をするんだよ……」

「死ねないことが、悲しいから」

「生きることに未練があるから、だよ」

「違う! 未練なんかない! こんな世界に、生きていたって意味がないの。いらない人間は、消えるべきなんだよ!」

「真白は、いらない人間なんかじゃない!」

「じゃあ、誰が必要としてくれるって言うの⁉」

「俺だよ!」

 衝動的だった。

 思考も理性も消え去った晨が取った行動は、真白の唇を奪うことだった。

 ただ、唇と唇を押し付けただけの感情の籠もっていないキスは、何の味もしなかった。

 晨が顔を離すと、真白は声を上げて泣き始め、晨のパジャマを握って引き寄せた。

 その力に抵抗する気力もない晨は、そのまま真白の横に寝転び、そっと背中を擦《さす》る。

 真白は晨に抱き着き、泣き続けているが、晨にその涙を止める術はない。

 掛けられる言葉も、何一つ出てこなかった。

 真白を必要としている。

 それは勢いに任せた言葉だ。

 だけど、本当に勢いだけの言葉だったのだろうか。

 殺してほしいと願う真白の未練は、生と死、どちらにあるのだろうか。

(本当に要らない人間は、俺の方だ)

 晨は決して口にできない思いを胸に秘め、泣き続ける真白の身体を強く引き寄せ、ぎゅっと抱き締めた。