「晨のこと、くすぐってみたい」

「ダメ」

「晨が爆笑してるところを見てみたいな」

 真白は頬杖をついて、上目遣いで晨に微笑む。

 その姿に、晨の心臓がトクンと反応した。

 意図しない心臓の動きに、晨は膝の上で握り拳に力を込めた。

 心臓を押さえたくなったを堪えたのだ。

 そんなことをしたら、真白に誤解されてしまう。

 いや、この心臓の反応は、晨にとっても誤解でしかない。

 何の意味もない。

 ただ、慣れない異性の姿に驚いただけだ。


「絶対に嫌だから。くすぐったら、怒るよ」

「じゃあ、それもありか……」

 真白の呟きに、晨は訝し気に見つめ返す。

「あり?」

「何でもなーい!」

 真白は晨の反応を待たずに、すっと立ち上がり、食器を重ね始めた。

「ちょっと、真白」

「はいはい、ちょっとごめんなさいねぇ」

 なんとなく食堂のおばちゃんを彷彿とさせる態度で、真白は颯爽とキッチンへ去って行く。

 その後ろ姿を見ながら、晨は髪をくるりといじった。

 何らかの魂胆があるはずなのに、見当がつかない。

 それが、とてももどかしい。